1285.18階の魔物討伐(7)
「さて。
まずは顔を直撃できるか、頑張ってみよう」
オーガのテリトリーに入る前に濃縮酢を低圧洗浄機モドキへ注入して創水のスイッチを入れて待機状態にしておき、直ぐにオーガへ放水(酢?)出来るように準備してから隆一は歩き始めた。
此方へ向かってくる魔力の塊を探知したら直ぐに魔力を練り始め、氷槍も準備しておく。
酢、氷槍、足止め用魔道具、氷矢の順番になる予定だ。
本来ならば足止め用魔道具を先にやるべきかもしれないが、下手に転ばれたりすると頭の位置がどこになるか分からないので、最初にまず酢を掛けるのをやってしまいたい。
遠距離用に水量を少し絞っているので距離は伸びるものの掛かる酢の量は限られるので、効果は弱いかも知れないが。
と言うか、虫系魔物と違って動物系(?)の魔物に酢がどの程度効くかはかなり怪しい。
酢よりも、それこそ熊避けスプレーのような胡椒や激辛香辛料の方がまだいい気がするが、それを長距離で飛ばすような道具を作るのは大変そうだし、こちらの世界ではまだ激辛香辛料を見た記憶が無い。どこかの迷宮の比較的浅い階層の産物でそういう効果がある物でもない限り、入手の手間を考えるとコストも高いだろう。
そんなことを考えながら、近づいてきたオーガに酢入り炭酸水をぶちまける。
「ガァ!!」
目に水が入った程度のうっとうしさはあったのか、一瞬嫌そうに首を振ったが、オーガはそのまま突っ込んできた。
「氷槍!」
ある意味予想通りに効果がなかったので、狙いをつけて練っていた攻撃魔術をそのまま叩き込む。
ちゃんと首の付け根に正面から氷槍が当たり、今度はしっかり衝撃が伝わったのかオーガの脚が一瞬止まった。
その間に足止め用魔道具を放つ。
立ち止まっているとしっかり足に絡みついてくれたので、オーガが何とか隆一の方へ来ようと手を伸ばして動いたところで倒れた。その隙に氷矢で目を狙って放つ。
「うっし!
いい感じにいったな!!」
動きが止まったオーガに、思わず隆一は小躍りして歓声を上げた。
前回はかなりギリギリな感じで安定感は欠片もなかったが、今回はほぼ想定の流れ通りに倒せて、一体ならダルディールが居なくても普通に倒せそうな手ごたえだったのだ。
「魔道具の助けあってとは言え、オーガを一人で倒せるなんて中々大したものじゃないか」
ダルディールも隆一の肩を叩きながら褒めた。
「不意打ちをされても大丈夫かが最後のハードルだが……流石にそれは試すのが難しいからな。
まあ、どこにいても常に魔力探知を忘れないように気を付けておいてくれ」
デヴリンがオーガの魔石を切り出しながら付け加えた。
「そうなんだよなぁ。
殺気は相変わらず分からないから、せいぜい頑張って魔力探知を常に展開しておくようにするよ」
ある意味、魔力を探知したら確実に襲ってくる魔物の方が、襲ってくるかどうか分からない人間よりも対処しやすい。
人間の場合は魔力で存在を感じ取れたとしても、襲ってくるつもりがあるかどうかなぞ分からない。先手必勝と言わんばかりに問答無用で攻撃するわけにもいかないし、難しい。
そこら辺はダルディールたちと、外ではついているらしき国の暗部の人間に期待するしかない。
「さて。
目隠しして、適当に何回か回ってから動こう」
もう何回かオーガやポイズンスライム、アーミーアントとの接敵を経験して本格的に自力で戦う鍛錬を続けたい。
次の階の風狼の群れはどう考えても隆一が一人で対処するのは厳しそうだから、せめて18階だけでも自分一人で動き回れるようになりたい。
まあ、それもアーミーアントの群れを低圧洗浄機モドキでどのくらい混乱させて逃げるか蹴散らせられるかによるが。
うっかり逃げる方向を間違えてモンスタートレイン的な結果になってしまったらデヴリン達に後始末してもらうことになるので、是非ともうまくやりたいところな隆一だった。
この世界にはスプレー缶は存在しないんだろうなぁ……




