1284.18階の魔物討伐(6)
「取り敢えず、最初はオーガのテリトリーに行って、それを倒したら目隠しをしてちょっとぐるぐる歩いてからまた適当に歩き回って探索能力ととっさの対応能力の向上を狙いたい」
低圧洗浄機モドキと濃縮酢を載せた運搬具を持ってきた隆一は、王都迷宮の入り口前でデヴリンとダルディールに今日のプランを提案した。
「確かに階段を出て直ぐだったら目隠しをしてちょっと彷徨いても現在地を分からなくするのは難しいし、オーガだったら魔力探知に引っ掛からないってことはまずないからな。
それでいいんじゃないか?」
デヴリンが頷く。
「今日はこれを使ってアーミーアントを倒すんだな?」
ダルディールが運搬具の中を覗き込みながら尋ねた。
「ああ。
群れに一回当たったらって程度で良い。
何度も当たってしまったら逃げてみることもいいかも?
それで他の魔物のテリトリーに入ってしまってそちらと戦う羽目になった際の練習も悪くないし。
ちなみにギルド側の実験はどんな感じなんだ?」
迷宮に入り、転移門に向かいながら隆一が聞いた。
「まあまあいい感じかな?
商業ギルドの人間にあの水まき魔道具の使い方の練習を事前に水を使ってやらせておいたら、大分と無駄が減ったらしい。
あれを本格的に貸し出す場合は先にギルドで練習講義を受けさせるようにした方がいいかも知れないね」
ダルディールが言った。
「その場合って貸し出しは探索者ギルドがするのか、それとも商業ギルドが?」
商業ギルドがそういう講義を提供しているとはあまり聞いていないが。
「練習する場所の提供も考えたら、探索者ギルドで貸出業務をする方が良さそうだな。
まあ、貸し出しは商業ギルドと共同事業っぽい感じになるかもだな。
商人が気に入って自分用に買うならそれはそれで話は別だが」
ダルディールが応じる。
「そんなにアーミーアントの群れってよく遭遇するのか?
なんかこう、遭遇したら終わりなマイナスな宝くじ的な存在だと思っていたんだが」
遭遇したら生きて帰れない可能性が高いとなると、行方不明になった商人のどのくらいがアーミーアントが原因かは分からない。
そう考えると、態々魔道具を買うほどのこともない気もしないでもない。
「そこはまあ、実際にあの魔道具を持って行ってアーミーアントに遭遇して上手く逃げ切れる行商人や隊商がどのくらい出てくるかによるだろうな。
だから態々買い取る人間が出てくるのはある程度情報が出そろった来年以降になるだろうな」
ダルディールが肩を竦める。
「考えてみたら、山賊のアジトを囲んで急襲しようとするときなんかに突然アーミーアントの群れに出会う事なんかもあるからな。
軍もあれを幾つか持っておくと便利かも」
デヴリンが顎をさすりながら言った。
「村の傍にあったら即討伐なのに、山賊のアジトの傍に巣があるなんてあり得るのか?」
確かに山賊のアジトだったら子供とかが出歩かなくて多少は危険性が少ないのかもだが。
「それなりに長生きする山賊の集団っていうのは自分たちのアジトを見つけられないように通るルートも注意して決めているし、そこ以外は通らないようにしているんだ。だから絶対に行かない方向に魔物の巣がある分には、そちらからの襲撃を気にしなくて済むってことで敢えて魔物の巣の近くにアジトを作る連中もいるんだ。
まあ、川や崖があるとかいった理由で魔物が動く方向が制限できる状況下でだが」
しかめ面をしながらデヴリンが説明した。
どうやらそういう魔物の巣に突っ込む羽目になって苦労した経験があるようだ。
確かに、アジトの場所が割れて、山賊の全員を確実に一網打尽にするために周囲を包囲して一斉に襲い掛かろうなんてする場合に、一方向に魔物の巣があると色々と問題がありそうだ。
山賊だってそっちの方向に逃げたら魔物に襲われる可能性は高いが、戦いがあって騒がしくあちこちに怪我を負った人間が動き回っている時だったら何とか通り抜けられる可能性はあるかも知れないという事で、一か八かで山賊の逃亡ルートに使われかねないし、魔物の巣と言うのは中々頭が痛い問題になりそうだ。
まあ、それはともかく。
「取り敢えず、18階で鍛錬だな。
ついでに、この酢がオーガに何か悪影響を与えるか、試してみるのもいいかも?」
目に入ったら痛がるだろうか?
濃縮なままの酢ならまだしも、炭酸水で薄めた酢ではオーガには大した効果は無さそう……




