1281.18階の魔物討伐(3)
地形を地図情報と付き合わせないように意識しながら、魔力探知とうっかりそれをすり抜けられた時に備えて周囲の動きに注意しながら普通の速度で歩くよう努力しながら隆一は足を進めた。
魔力探知に注意を払いすぎてそろそろ歩きをするとそれはそれで疲れるし、何といっても時間が掛りすぎるのだ。
理想的な探索モードの動き方は、普通に歩きつつも周囲に注意を払う事だとデヴリン達に教わった隆一としては、うっかり見過ごしても助けてもらえる今のうちに、それをマスターしようと敢えてゆっくり動かずに普通の速度で歩きながら周囲への探索を精一杯頑張った。
あとで頭が痛くなりそうな気もするが。
だが、ある程度の負荷をかけて努力した方が、きっと成長も早いだろう。
多分。
成長の伸びしろがあるなら。
「お?
オーガだな」
斜め右前方の方から魔力の塊が成人男性が軽く走るぐらいの速度で移動して来ている。
思わず、ここがオーガのテリトリーとしたら18階のなかのどこだろうかとマッピング情報を分析しそうになったがそれを止め、攻撃魔術を準備しながらクロスボウを持ち上げてオーガのくる方向へ集中した。
「考えてみたら、迷宮って25階に着くまでは特定の魔物に遭遇したら他の魔物から襲われる危険が殆どないよな? これって戦う時に周囲を警戒する癖が無くなって危険そうだな」
別の魔物のテリトリーへ隣接した場所だったらそちらの魔物が出てくる可能性もあるが、ある程度の速度で歩いていれば魔物と遭遇する時には大抵その魔物のテリトリーの内部の方に進んでいる。
そう考えると、ますます迷宮内を探索に頑張りすぎてゆっくり歩くことのデメリットが大きい。
「まあ、この国の迷宮は殆どそうだな。
攻略前だとどの迷宮でも階層ごとの魔物はほぼ固定だが、中では自由に動き回っている。あと、攻略後でもずっと探索者が入らなくて大繁殖が起きそうになってきたら階層中に魔物が増えていてテリトリーなんて関係なくなるが、この国でそんな現象はまず見かけないな」
デヴリンが頷く。
「それってヴァサール王国の探索者が他国に行くとうっかり死ぬことが多いって結果にならないか?
もしくは自分は強くなったんだぜ~ってなってペルワッツ迷宮を攻略しようと挑戦した場合も」
走ってきたオーガに足止め用のクロスボウを打ち込みながら隆一が尋ねる。
左足に絡まった足止め用魔道具の粘着縄が良い感じに足にぐるぐると回って右足も巻き込んだ。
「うわ!」
どがっと倒れ込んだオーガが隆一の方へ棍棒を投げつけた。
慌ててかがんだ隆一の頭上で、デヴリンが棍棒を片手でキャッチする。
「これで投げ道具無くなったな」
苛立たしそうに足に絡まった粘着糸を引きちぎろうと暴れているオーガを見ながらデヴリンが笑った。
「氷矢!」
取り敢えず現時点では攻撃される危険がないので、氷矢をしっかりと狙いをつけてオーガの喉元に叩き込む。
ちゃんと狙ったところに当たったのだが……今までのオークやミノタウロスと違って、いまいち効果が見えない。
ピシ!
粘着糸の一部がオーガの腕力に負けて引き千切れた音が響いた。
「氷槍!」
慌てて胴体めがけて中級攻撃魔術を魔力マシマシで叩き込む。
今度は効果があったのか、大分とオーガの動きがゆっくりに弱くなった。
とは言え、まだ生きている。
「氷槍!」
もう一度、今度は頭に叩き込んだら動きが止まった。
「う~ん、大分と魔力を使うな。
一応足止めは出来ているようだが」
18階にいるオーガを全部倒そうと思ったら久しぶりに魔力切れを起こしてしまいそうだ。
「最初に氷槍を首の近辺に叩き込んで、その後は氷矢を頭に放てばいいんじゃないか?
氷槍が首に当たったらそれで肩や腕の動きもある程度阻害される筈だし、暫くしたら窒息しするかも?」
ダルディールが指摘した。
「なるほど。
最初に接敵した段階で一番強い術を確実に叩き込む方が良いな。
今回みたいにすぐさま棍棒を投げて来るとも限らないから、二発目からの攻撃は棍棒に警戒しながらになるからそこまで集中できないかもだし」
隆一が自分の戦いの反省点を考えながら頷く。
反省点は中々多い。
18階でまだ暫く鍛錬することになりそうだ。
ライトフライ!
キャッチしてランナーアウト〜!




