1279.18階の魔物討伐
酢入り炭酸水を撒く低圧洗浄機モドキはアーミーアント対策としてそれなりに有効であるという事が証明され、探索者ギルドと商業ギルドで更に色々なケースを試した上で広げることになった。
低圧洗浄機モドキの特許申請はダーシュに頑張って貰ってあるので、隆一がやらなければならない事はもう特にはない。
ついでに高圧洗浄機も掃除用に売れないかと提案してみたのだが、態々壁の掃除などに魔道具を買うほど金がある人間だったらクリーンの魔術なり水球の術が得意な人間を雇うだろうという話になり、諦めた。
商人が自分や荷馬車を洗い流す程度だったら低圧洗浄機モドキを使えばいいのだし。
高圧洗浄機は建物の外壁程度の強度がなければ洗う対象を削ってしまいかねないので、それならばそういう能力がある人間を雇う方が経済的な可能性が高い。地面から2階以上の高さを洗える訳ではないので、そうなると高いところで安全に作業できる人員か仕掛けが必要になってそれなりに高くつくから、現行の仕組みで行う方が安上がりな可能性が高いのだ。
という事で。
商品開発が終わった隆一は、また18階で鍛錬と討伐を続けるために戻ってきた。
今日も何やら低圧洗浄機モドキの使い方を練習しているらしきギルドから雇われた探索者や素人の人間がバタバタしているようだが、取り敢えずそれから離れた場所で活動することになっている。
「ちなみに、アーミーアントって単体で出てきても戦っている間に群れが寄って来る可能性が高いんだよな?」
18階の階段に降り立った隆一が護衛役二人に尋ねる。
「だな。
巣からかなり離れたところで餌をさがして動いている斥候蟻に出会ったのなら多少の時間の猶予はあることが多いが、倒しきれなかったら後から群れに襲われるし、倒しきれても時間をかけ過ぎると増援が来るね」
ダルディールが隆一の言葉に頷いた。
「クロスボウ式足止め用魔道具で動きを止めて何とか1体ずつなら倒せるが、群れと戦うのは無理だと思うんだよなぁ。25階まで行こうと思ったら、アーミーアントの群れを一人で倒せないとダメなのかな?」
ちょっと困ったように隆一が二人に尋ねる。
それなりにしっかり固定式な足止め用魔道具を事前に準備しておき、順番に倒していくならば群れでも倒せる。多分。
だが現実の世界でそんな準備万端な戦い方が出来ることは滅多にないだろう。
「25階はリュウイチ程度の探索者がソロで行く場所じゃないからなぁ……。
だが俺たちと組んで俺たちが倒しきっちゃっていたらあまり意味がないっちゃあ無いし。
盾役と一緒に群れと戦いつつ、時々『うっかり通しちゃった』的に不作為なタイミングで増援が来る感じにやってみるか?」
デヴリンがダルディールと相談する。
隆一が25階に降りた際にうっかり死なないようにそれなりに腕を上げる必要はあるが、アーミーアントの群れをソロで倒せる腕と言うのは25階に護衛付きでちょろっと訪れる程度だったら過剰戦力と言え、流石にそこまで鍛錬させていたらきりがないと判断したようだ。
「どの程度うっかりをやるか判断が難しいところだが……3体から5体ぐらいとは戦えた方が良いかな?
先に群れを間引いておいたらどうだろう?」
ダルディールが提案する。
中々スパルタな鍛錬になりそうだ。
「どちらにせよ、探索者ギルドの連中が使っていないアーミーアントのテリトリーに行こうと思ったら先にポイズンスライムとオーガを倒さなきゃだな。
そちらを問題なく倒せるか確認しながら、行こうか」
頭の中で18階の魔物分布図を思い浮かべながら隆一が左の方を指して提案する。
「だな。
考えてみたらオーガともまだまともに戦っていないし」
デヴリンが頷く。
ポイズンスライムはまずは探知が問題なので、テリトリーのマッピングが終わって不意打ちされにくい現状ならば、倒すだけなら特に問題はない筈。
外や未攻略な迷宮内でのポイズンスライムの危険性は不意打ちによって大幅にアップするので、ある意味どこにいるのかテリトリーのマッピングをしてしまっているのは鍛錬としてはちょっと失敗なのだが……隆一が野良のポイズンスライムが居るようなところに万全以上の護衛なしに出歩く可能性は限りなくゼロに近いので、まあいいだろう。
ちょっと残念と言えば残念だが。
安全を期していると鍛錬がどうしても緩くなりますよね〜




