1274.蟻対策:魔力(13)
アーミーアント対策の魔道具の想定購入層に関してダルディールと話していたら、デヴリンがフィールドの奥の方から走って戻ってくるのが見えてきた。
「お、戻ってきた。
じゃあ早い目にスイッチを入れて、ここに辿り着いたらすぐに水をぶっ掛ける感じにしてみよう」
隆一が創水のスイッチを入れる。
水が溜まり過ぎるのを防止する安全装置に関しては後で家でやればいいだろう。
魔力測定器も準備して、デヴリンが来たらすぐにフェロモンの掛かっている範囲を確認してそれを消せるように準備しておく。
実際の利用状況では走っていて揺れる荷馬車の座席で準備する羽目になりそうだが、その場合は魔力測定器はなしで、ただ単にアーミーアントと遭遇した人間を頭の上から足の裏までがっつり水で洗い流す感じになるだろう。
今回は実際にフェロモンが掛った状態になっているかを確認するために魔力測定器で一度見るが、次はもう確認なしで頭の上から水をぶっ掛けて、一通り洗い流し終わってからちゃんと落ちてフェロモンが無くなっているかを確認する形でも良さそうだ。
「はい、そこに立って~」
邪魔にならないように荷物を退けておいた入ってすぐの場所に立ち止まるようデヴリンへ注文し、魔力測定器でちゃんとフェロモンとアーミーアントの魔力が掛かっているのを確認してシャワーで頭から丸洗いする感じに水をぶっ掛ける。
「よし、これで外に出て行ってアーミーアントに追いかけられるか確認してくれ。
悪いが乾かさない状態で逃げる羽目になったらどうなるか確認したいので、乾かすのは後でやらせてくれ」
上から下までシャワーで洗い流し、ちらっと魔力測定器で魔力が全部上書きされているのを確認してから急いでデヴリンを階段から追い出す。
幸いにもまだ先ほど追いかけてきたアーミーアントが追い付いていないので、このまま走り去れば丁度いい感じに現実的な実証実験になるだろう。
「濡れていると走りにくいだけどなぁ」
ぼやきながらデヴリンがそのまま階段領域から飛び出し、左の方へ走っていく。
「濡れたまま走ると靴が傷みやすいんだけどな。可哀そうに」
苦笑しながらダルディールがコメントした。
なるほど。
確かに靴の手入れなんかで、雨にぬれたり汗をかいた後はしっかり乾かしてから履くことを推奨されていたか。
「新しい靴を一足作れるように、商品券でも買えないかな?」
オーダーメイドだろうからそれなりに高いだろうが、デヴリン達を雇うとなったら本来なら目が飛び出るような高額報酬が必要だろう。
隆一の実験で酷使されるせいで装備の劣化が早まるなら、その分は賠償して当然だ。
家をもう一軒買えるぐらいのお金は溜まっているのだ。
一流探索者の超一流装備だとしても、家よりは安いだろう。
靴だけなんだし。
「いや、冗談だよ。
多分騎士団の備品扱いな靴だと思うから、買い替えも騎士団が負担するから大丈夫だろ。
ただ単に、濡れた靴で走り回るのは居心地が悪いだけで。
あの程度、水を掛けられるだけだったら靴の中まではびしょびしょになっていないだろうから、大丈夫さ」
ダルディールが笑いながら先ほどのコメントを撤回した。
単に濡れネズミな状態で走り回る羽目になったデヴリンへの同情から出た冗談混じりな言葉だったらしい。
「そうか。
じゃあまあ、ダルガスの燻製で負けてもらおう。
だが考えてみたら、ちゃんとした装備ではなく隊商に同行している商人や探索者が履くような靴やそういう連中の服でも試すべきかも?
商人がアーミーアントに遭遇しちゃって走って逃げられるか怪しい気はするが」
普通の服だったら防水加工があまりされていなくて、アーミーアントのフェロモンがしっかり服の生地にまでしみ込んでいる可能性がある。
そう考えると、上からさらっと魔力の籠った水で洗い流しただけでちゃんとフェロモンに含まれていた魔力を上書きできるか、ちょっと疑問な気がしてきた。
「それを言うなら実際に荷馬車や行商人の荷物を背負った状況とかでの実験をした方が良いかもだな。
迷宮内に荷馬車を引く馬を連れ込むのは無理だが、積載量を減らせば荷馬車を馬が引いているのと同じぐらいの速度で探索者が馬車を引っ張って動かせるだろう。
探索者ギルドの方で実際に行商人や隊商の人員の協力を得て実証実験してみようか?
走るルートを吟味して、必要に応じて魔物を先に倒しておく必要があるがそれなりに外の環境に近い感じに出来るかも知れない」
ダルディールが提案してきた。
「外で実験するよりはここでやる方が安全そうだな。
ちょっと魔道具の安全装置を付ける必要があるから、初期的な話し合いだけをギルドが伝手がある隊商や行商人と始めておいてくれるか?」
アーミーアントを撒いたデヴリンが歩いて戻って来るのを見ながら隆一が頼んだ。
どうやらちゃんとフェロモンとその魔力は洗い流せていたようだ。
アーミーアントの群れはデヴリンを見失ったのか、諦めたように元のテリトリーに戻って行った。
「ああ。次の実験は付き添いだけで自分が濡れないで済むとなれば、デヴリンも喜ぶだろう」
笑いながらダルディールが言った。
……実験に付き合う行商人や隊商の人間にも燻製肉を準備するべきだろうか?
そちらは金なり完成した魔道具で支払う形にしたいところだが。
商人にアーミーアントとの遭遇実験をやらせるとなると、すぐ側で助けられるように待機してなきゃだから、結局デヴリンにもフェロモンが付いちゃって低圧洗浄機の餌食になる方に一票w




