1273.蟻対策:魔力(12)
「魔石消費量を減らすために創水と送風の出力を低くすると水がたまるのに時間が掛るし、シャワーの水の飛ぶ距離も短くなるからアーミーアントに遭遇した人間の傍に寄らなきゃいけなくなって、下手をしたら水を掛ける人間の方にもフェロモン混じりな飛沫が飛びそうだな」
魔法陣を弄って、魔力効率を上げるために試作品の出力を絞る形にしてデヴリンにまたアーミーアントと接敵してきてもらったところ、水を掛けるのにかなり支障が出る感じがした。
「普通に隊商が移動している際に野営地に着いて馬に水をやるための水を出すのだったらその程度でも良いが、日中の休憩時間の水出しでもそれじゃあ遅すぎるし、アーミーアントに追われてるとなったら水を出している間に追いつかれて齧られちまうな」
デヴリンが今回の修正の問題点を指摘した。
「だよな~。
魔石消費量よりも生存率を上げる方が重要か。だとしたら、反対に水の出てくる速度を倍速にしてみるか。
ホースの水の飛ぶ距離は最初のあれで問題ないと思うか?」
というか、考えてみたら出力を下げて飛距離を稼ぐなら、シャワー部分の穴をふさぐ方に捩じればいいのだ。
隆一は送風の方は変更した形のままにしておき、創水の出力だけ元の倍に変えてみた。
「よし。
じゃあまたアーミーアントにフェロモンをぶっ掛けて貰ってきてくれ」
デヴリンに頼む。
アーミーアントのフェロモンをスプレーにでも集めておいて噴き付けられれば楽なのだが、残念ながらそんな道具はない。
アーミーアントを飼い慣らすのに成功した事例もないので、アーミーアントの使い魔にこちらの希望したタイミングでフェロモンを噴き付けさせ、試作品を試した後に効果を確認することも出来ない。
魔物をテイム出来たら色々と実験がしやすくなるのにと改めて残念に思う隆一だった。
まあ、毎回アーミーアントの群れまで行って殺しすぎずにあちらと接敵して戻ってこなければならないデヴリンが一番それを残念に感じているだろうが。
「今のうちにここを乾かしておくか」
デヴリン本人は一応クリーンで服を乾かしたが、階段の壁や床はまだ水だらけだ。
創水の術は周囲から水分を集めるので術を起動させたら周囲の湿度は下がるだろうが、あまりびしゃびしゃなのは色々と不都合があるので乾かしておいて損はない。
クリーンの術を掛ける際に水や湿気も除去することを強く意識すれば濡れた服や髪だけでなく壁や床だって渇くので、隆一は壁と床にもクリーンをかけまくった。階段一体がやたらと綺麗になったが。
「探索者が蟻対策の魔道具を持ち歩いて探索に行くことってあるのかな?」
クリーンを掛け終わってもまだデヴリンが戻って来ていなかったので、隆一はふとダルディールに尋ねてみた。
「通常はないだろうな。
蟻系の魔物が多い大繁殖が起きそうだという状況で斥候に出る場合なんかにあると便利だろうが。
迷宮内だったら階段まで逃げればいいだけだし、迷宮外で遠征するようなパーティだったら魔術師が含まれるから水球で洗い流すだろう」
ダルディールが言った。
「こう、街の周りの魔物を倒す程度の中堅かそれ以下の探索者パーティだったら魔術師が居ないこともあるんじゃないのか?」
どうしても魔術師が全体の割合的に少ないため中堅以下は魔術師なしなパーティも多いと聞いた筈。
「町の周りにアーミーアントが発生したら、領主が速攻でそこの探索者ギルドに依頼を出して巣を潰すからね。
どうしても無理そうな場合は軍に泣き付くし。
下手をしたら行商人や住民が日中に出会って翌日の明け方には町が群れに囲まれていたなんてことになりかねないアーミーアントは絶対に街の周辺に存続させられない魔物なんだ」
ダルディールが言った。
なるほど。
「となると、売り出すとしたら行商人か隊商がメインターゲットか。
探索者ギルドはもしもの時の為に一つか二つ在庫に置いておくかも程度で」
「そうだろうな。
水補給にも使えるバケツ一つとホース程度だったら買う判断をする隊商は多いんじゃないかな?」
ダルディールが応じた。
となると。
確実にアーミーアントに出くわした時に逃げられる仕様にしないと信用問題になりそうだ。
夜中はあまり動かないから寝ている間に喰われるリスクは低いけど、日が出たら動き出すとなると、人間が出遅れる可能性あり……




