1272.蟻対策:魔力(11)
「頭部からいくから、ちょっと目を閉じて息を止めておいてくれ」
デヴリンに一応の注意をして、隆一が低圧洗浄機モドキの創水スイッチを入れ、暫し待ってから送風スイッチを押す。
魔力を含んだ二酸化炭素の風を水の中にぐいぐい押し込むことで魔力を含んだ炭酸水にするので、10秒ぐらい待つ必要があるのだが、考えてみたらアーミーアントに追われていて必死に距離を稼いでフェロモンを消そうとしている時にこの二段階で暫く待つという仕様はちょっと問題かもしれない。
水を先に貯めるのと合わせると、30秒ぐらい待つ必要があるのだ。
逃げている間に低圧洗浄機モドキのスイッチを入れられていればいいが、そうでないとちょっと厳しいし、スイッチを入れて待機状態にするならば水量と水圧がある程度のレベルになったらそれ以上にならないように設定しないと、それこそ圧力鍋の様に爆発したり、最初に水を出した時に超高圧な水になっていて人や幌が破損するなんてことになりかねない。
高圧水でアーミーアントを直接撃退出来たらそれはそれで面白いが。
流石にあの硬い外殻を破壊できるほどの高圧水を出そうと思ったらバケツ自体を頑丈に作らなければならないし、必要な魔力も大幅に上がるし、事故防止に必要な安全装置的な魔法陣も色々と複雑になって来るから、無理だとは思うが。
まあ、もしも酢や重曹水を掛けたらアーミーアントが劇的に弱化するというのだったらそれはそれでありかもだから、一応後日実験してみたら面白そうだ。
それはさておき。
準備が出来た低圧洗浄機モドキをデヴリンに向けて、シャワーを完全開放状態で炭酸水を掛ける。2メートルぐらいの距離なので、水圧を上げるために穴をふさぐ必要はない。
ジャバジャバ水を掛けながら魔力測定器のスクリーンを覗き込んだら、良い感じに顔の魔力が上書きされている感じだった。
試薬も落ちている。
……というか、魔力の量が変わっただけであり、炭酸水に含まれる魔石の魔力がアーミーアントへのマーキング効果がある魔力を消し去ったのかは不明だ。
取り敢えずそのまま体の方にも炭酸水を掛けまくり、試薬が全部流れ落ち、魔力も低圧洗浄機モドキから出てきた魔力の濃度の色になったのを確認し、床や壁も一応奇麗に洗い流してから試作品を止めた。
足も片足ずつ上げてもらって靴の裏まで流したので、これでアーミーアントのフェロモンは消えた、筈。
「考えてみたらアーミーアントの魔力と魔石からの魔力の違いって言うのを魔力量を測るだけの測定器じゃあ確認出来ないんだよな。
まあ、取り敢えず上書き出来たと期待して、今の状態で外に出たらアーミーアントがマーキングされた時みたいに執拗に追いかけてくるか、確認してみてくれ」
隆一はデヴリンに頼んだ。
「ほ~い」
デヴリンが階段の外を見回し、アーミーアントの群れがテリトリーに戻り始めているのを確認してから外に出た。
「ちなみに魔力ってこう、魔力感知や魔力視の能力を磨けば火や水や風の属性の割合とかで識別出来るようになるにか?」
隆一がダルディールに尋ねた。
魔物によって属性のバランスが違えば、その魔力もそれなりに大雑把な個別波動的な特徴がある筈。
魔力認証のロックが存在するのだ。
魔力の個別認証をもう少し大雑把なレベルで出来ないだろうか?
魔力認証レベルの確認方法ではアーミーアントの魔力に少量の魔力入り炭酸水を掛けた時点で『別物』扱いになってしまうので、まだ部分的にでもアーミーアントの魔力が残っているかどうかの確認には適していない。
「創水の水で洗い流した後にアーミーアントのフェロモンの魔力が残っているかどうかを見極められるような精度の魔力視を持っている探索者の話は聞いた事がないな。
錬金術ギルドとか魔術院の研究科とかにそういう極端に尖った能力を持つ人間が居るかもだが」
ダルディールが首を傾げながら応じた。
「……まあ、取り敢えずあれでデヴリンが追いかけられるようだったら考えるか。
あれは……追いかけられてない、感じなのか?」
フィールド内で何やらアーミーアントの群れと追いかけっこをしているデヴリンを見やりながら隆一が尋ねる。
視認されたらアーミーアントに追いかけられるので、フェロモンがついていようがいまいが追いかけられる筈。なにでフェロモンの効果が洗い流されているかの確認はなかなか難しいだろう。
何やら走って引き離してはアーミーアントを待ち、また追いかけられたら引き離しと言う感じに走り回っているように見える。
「多分フェロモンは落ちているかな?
マーキングされた時の追跡と違って、視認した時のみ追いかけているように見える」
やや自信なさげにダルディールが応じた。
どうやら低圧洗浄機モドキは成功したのかも知れない。
もう少し魔力を減らして使ったらどうなるか、試行錯誤をする必要があるが。
これからまた、デヴリンがびしょ濡れになって走り回る日々が続くw




