1270.蟻対策:魔力(9):迷宮内で
「今日もまた、18階でアーミーアント相手に実験をするんで付き合ってくれ。
もしも一発で上手くいったらアーミーアント関連の実験はこれで一通り終わりってことで、魔物討伐に戻れるかも?」
数日掛けて低圧洗浄機もどきな魔道具を完成させた隆一はダルディールとデヴリンに探索再開を連絡して、今朝はいつも通りに迷宮前で集まっていた。
インクを混ぜて簡単には流し落とせないようにした魔力込みな液体を洗い流すのは最初は中々上手くいかなかったが、創水した水に魔力を込めた二酸化炭素を含めて炭酸水にしたところ、汚れも魔力も良い感じに洗い流せるようになった。これでアーミーアントのフェロモンも洗い落とせるのでは無いかと隆一は期待している。
魔力がたっぷり含まれた水を荷馬車の幌や服に掛けた場合に他の魔物を引き寄せる結果になるかどうかはちょっと要確認ではあるが、水への魔力含有量は簡単に調整できる。なのでこちらは実地でアーミーアントのフェロモンを洗い流す実験をした際に魔力の痕跡を洗い流すのに必要最小限な量を確認しつつ調整していく予定だ。
最初は洗剤を少量混ぜることで汚れを落としやすい形にしようかとも思ったのだが、バケツの水を馬の水やりなどに使うかも知れないというエフゲルトの指摘があったので、石鹸味は嫌がられそうだとやめた。
石鹸を持ち歩かない行商人も時折いるらしいし。
「そのバケツとホースでアーミーアントのフェロモンを洗い流すのか?」
隆一が引っ張ってきた運搬具を覗き込みながらデヴリンが尋ねる。
「ああ。
魔石を使うから魔術師でなくても出来るし、魔法陣をすっきりと効率化したから創水の魔力消費も省エネになった。普通に探索や移動中の飲料水用に使っても損はないと思う。
フェロモンと魔力を洗い流す効果に関しては、これから実施実験して確認ってところだな」
錬金術ギルドで見つけた創水の魔法陣はそれ程悪くなかったが、多少は非効率的な部分もあったのでそれを修正したら魔力の消費量が2割程度減った。二酸化炭素を足す効果はホースで水を出すときに付加されるので、バケツに溜めた水を汲んで飲む分にも問題ない。
ホースを清潔に使っているなら、炭酸水が飲みたい人間はホースから水を出せば炭酸水を安く入手できるが……流石にそれは口にするつもりはない隆一だった。
炭酸水なんて、ちょっとおしゃれな高級路線な印象なのだ。
それがホースから出て来るなんて、許容できない。
「そういえば、ポイズンスライムもオーガもあまり売る部位がないから、18階は人気はないんだっけ?」
アーミーアントに対処する魔道具が完成したら、あとは18階の魔物を隆一が実力で倒せるようになるよう鍛錬するのみになる。
魔石以外売る部位がないとなるとちょっと楽しみが少ない階層になりそうだ。
「まあそうだな。
今まで殆ど捨ててきたアーミーアントの外殻を防具用に買いとる需要はあるが、その手間を考えると19階に降りてエルダートレントや風狼や氷蛇を倒してそっちの素材を売る方が金になる。
外殻が硬い群れ相手に戦う鍛錬としてアーミーアントに慣れる以外は、あまり探索者が長居しない階層だな」
デヴリンが教えてくれた。
アーミーアントをデヴリンがスパスパ倒していたからあまり危険視していなかったが、隆一にアーミーアントの群れを倒せるかはかなり疑問だ。
「アーミーアントは設置型とクロスボウ型の足止め用魔道具のどちらがより効果的かを確認しないとだな。
あれが群れで襲って来るのを一人でそのまま倒すのは無理そうだ」
ちょっと顔をしかめながら隆一が言った。
というか。
考えてみたら、煌姫に聞いたお酢を使って撃退に使えないか、試してみてもいいかも知れない。
流石に酢を掛けただけで死ぬとは思えないし、戦闘状態になって群れごと襲い掛かってきている時に酢を掛ける程度で相手が撤退してくれる事もほぼ無いだろう。
だがあの外殻に酢を掛けたら弱るとか言った効果があるなら、攻撃魔術が効きやすくなるかも?
それこそフェロモンを洗い流す低圧洗浄機から出す水を酸性かアルカリ性な液体に変質させてかけてみて、何か効果がないか実験してみようと思った隆一だった。
皮膚や布や木材を弱めてしまうほどの強烈な液体では困るが、後で洗い流したら短時間だったら大丈夫な程度だったらありかも?
『ぎゃ〜〜酸っぱい〜?!』




