1269.蟻対策:魔力(8)
送風の出力を下げ、ホースの先に細いシャワーヘッド型のカバーを付けて、再度起動してみる。
水をまず作り出し、バケツに半分程度溜まったところで送風スイッチをオンに。
今回はちゃんとホースを手に持ち、壁に向けてある。
シャー!
「いい感じ、かな?」
そこそこ勢いよく水が壁に当たっているが、水に手をかざしてみても水圧は痛い程ではない。
ゆっくりと後ろ向きに動きながら、どの程度の距離まで壁に水が届くかを確かめる。
「う~ん、2メートルじゃあちょっと短いよなぁ?」
シャワーヘッドの傍で手に触れても痛くない程度にしようと思ったら、2メートル程度しか水を飛ばせない。
とは言え、考えてみたらこの装置で体に吹き付けられたフェロモンを洗い流すのだったら、自分一人でやるのでなかったら相手とちょっと距離を取ってやらないと飛沫で自分まで濡れてしまう。
「エフゲルト。ちょっとノートを置いて、壁の傍で手をかざして立っていてくれるか?」
高圧洗浄機から放水器にランクダウンした魔道具のスイッチを切り、魔法陣を修正するために蓋を取り外しながらエフゲルトに頼む。
一人で行動する行商人が自分に吹き付けられたフェロモンを洗い流せるように、シャワーヘッドをどこかに固定できるように何か器具を付けた方が良いだろうが、取り敢えずまずは水の届く距離と当たった時の痛さを両立できる水圧を実現できる送風量を確認しなくては。
考えてみたら、シャワーヘッドの穴の量を減らしたら自動的に水圧が上がって遠くまで水が飛ぶようになる筈。今の水圧はもう少し上げた方が良いにしても、シャワーヘッドもひねったら穴の数が3分の2になるぐらいにして、魔法陣を弄らなくても水が届く距離と水圧を修正できるようにしたら便利かもしれない。
という事で、シャワーヘッドの部分にねじって位置をずらしたら穴の3分の1をふさぐカバーを取り付ける。
しっかり動かないようにカチっと止まる仕組みにしておいた。
「よし、これで水を当てるけど、かなり痛いとか、古い幌の生地に当てたら穴が開きそうだとか思ったら言ってくれ」
幌だって、激しい雨が降った程度で穴が開いては話にならないの。そう考えると、当てられて我慢が出来る程度の水圧だったら多分豪雨と同じ程度で『大丈夫』な範疇になるだろう。
多分。
何分古い幌が破けるかどうかなんてそうそうテストなんぞ出来ないから、問題が起きるようだったら後で売り出した後に修正するしかない。
売り出すかどうかも微妙に不明だし。
もしかしたら、商業ギルドに話を持って行く際に古い幌でのテストを委託したらありとあらゆるボロい幌の行商人を集めてテストしてくれるかも?
単に自分の興味で色々と実験しているだけなのだが、売りに出すなら商業ギルドにテストを任せてしまうのもありか。どうせ苦情を言ってくるのも商人だろうし。
こういう魔道具が欲しいとはっきりと商業ギルドや探索者ギルドから話が来ている訳ではないので、特許登録をしたところで誰も売ろうとしない可能性も無きにしも非ずだが。
「じゃあ、まず穴を全開で」
3メートルぐらいの所に立って、最初はエフゲルトが居ない方に水を出してみてから徐々にエフゲルトの方へシャワーヘッドを向けていく。
「ちょっと水圧が強いかな?と言う程度で、何かを洗い流す間だけ我慢するのだと思えば問題はないでしょう」
エフゲルトが手を水に当てたり離したりと動かしてから、言ってきた。
「よし。
じゃあ、もう少し遠ざかるぞ」
エフゲルトから水の向きを変え、穴を3分の2に減らす。
先ほどより大分と水圧が上がった感じがする。
そのまま後ろに下がったら、大体5メートルぐらい水がギリギリ届くといったところか。角度を上にあげてギリギリなので、勢いはあまりない。
この程度ではあまり洗い流しに足りない気もしないでもない。
「さっきよりも水の勢いがありませんね。
これで泥とかを洗い流すのは時間が掛りそうですが、フェロモンだとどうなるんでしょう?」
水を手に当てたエフゲルトがちょっと首を傾げながら言った。
「よし。
じゃあ次は魔力の籠った液体を掛けたのを洗い流せるかだな」
まずはゴーレム粉とインクでも少し混ぜた液体を噴き付けた壁を奇麗に出来るか、実験してみよう。
いや、壁よりも布や板や人間の服や腕を対象に実験すべきか。
……エフゲルトに荷馬車の幌に使う用な生地を使ったコートでも着てもらって実験したらいいかも?
エフゲルトも段々マッドな世界に引き込まれていく……?




