1268.蟻対策:魔力(7)と高圧洗浄機もどき
「バケツとホースを買ってきました」
創水と送風の魔法陣を組み合わせて高圧洗浄機モドキな魔道具用の魔法陣を書き上げていたら、エフゲルトが帰ってきた。
「お、丁度よかった。
サイズを知りたいと思っていたところなんだ」
バケツの蓋にする形で魔法陣を刻んだ部品をはめ込み、そこにホースも通す予定なのだがバケツのサイズが分からなければ作業が進められない。
一応魔法陣は既に板(スライムジェルで防水性を高める加工済み)に刻んであるので、あとはホースを通してバケツの本体とサイズを合わせるだけで取り敢えず試作品は作れる。
「はい、どうぞ。
もっと大きいのもありましたが、隊商なんかが持ち運んで馬の水飲み用なんかにも使っているバケツだとこのサイズが一般的だそうです」
日本で見かけたバケツよりも少し直径が大きい代わりに多少浅いバケツをエフゲルトが隆一に差し出した。
考えてみたら、日本のバケツのサイズや形は何を基準に決められたのだろうか?
女性が問題なく持ち運びできる重さの水を入れて歩いても零れないという感じで色々と実証実験をしたのだろうか?
馬が水を飲む為となると少し浅くて大きい方が良いのだろうが、水を汲んで持ち歩くと零れそうだ。
もしかしたら平均的な隊商だったら創水の術を使える人員を一人ぐらいは確保していて、その人物が使う場所に置いたバケツに水を術で出すから浅くても良いのかも知れない。
まあ、それはとにかく。
加工スキルで作っておいた蓋部分をバケツの上をぴったり留められる形に調整する。更に鉄片を使って中折れ式金具を3か所取り付けて、しっかり蓋(と魔法陣)をバケツに固定できるようにした。
あとは、ホースを中に通すだけだ。
バケツの蓋にホースの直径に合わせた穴を開け、周辺をスライムジェルで覆って空気が逃げにくいようにした上で、バケツの持ち具にホースを固定できるように留め具を付けておく。
これで多分、ホースがすっぽ抜けたりしないだろう。
抜けたら抜けたで、工夫していけばいい。
「……水を撒く形になるから、実験は庭でやった方が良いな」
周囲を見回して、隆一はバケツとホースを手に取って立ち上がる。
「あ、持ちますよ」
慌ててエフゲルトが近寄ってきたが、手を振って断った。
「重くもないし、すぐそこなんだから構わん。
それよりも記録用にノートとペンを忘れずに持ってきてくれ」
魔力を含んだ液体をかけてそれを洗い流せるかのテストもするとなったらそちらのスプレー器や魔力計測器も必要だが、取り敢えずはまず思う様にちゃんと高圧洗浄機モドキが機能するかを確認してから残りの道具を持ち出せばいいだろう。
実験室は出て直ぐの所から庭に出れるので、さして遠くは無いし。
庭に出た隆一は、隆一達に目を向けてきた警備担当に傍に来なくていいと手を振ってから、壁際にバケツを置いた。
「さて。
魔石を入れて動かす形にしたんだが、上手くいくかな?」
魔石をはめ込み、スイッチを入れる。
魔力が流れ、創水がバケツの中で起動したのが感じられる。
軽く手で持ち上げて、半分ぐらいまで水が入ったのを確認して送風のスイッチを入れた。
「うわ!」
ホースが跳ねるように伸びて、傍にいて覗き込んでいたエフゲルトが水の直撃を受けた。
「あ、悪い!」
風を吹き込んでもバケツの中の空圧が上がるまでは水が出てこないと思っていたので、しっかりとホースを抑えていなかった。
慌ててブンブン動き回ろうとするホースを踏みつけて止め、手に取る。
かなりの勢いでホースから水が出ていて壁に当てたら下に水が溜まっていったが、やがて水の勢いが急激に下がった。
「うん?
どうやら送風の勢いが強すぎたか?」
というか、ホースの先を少し潰して水の出る量を減らして勢いを高める形にした方が良いかも知れない。
汚れ(フェロモン)を落とすのだったら高圧洗浄機モドキ的に水圧が高い方が良いと思ってそれなりに風を大量にバケツの中に発生させて水を押し出す勢いを上げようとしたのだが、水の発生速度に追いついていないとなったら意味がない。
ホースの先を潰して出てくる水の量を減らしたところ、水圧が高くなった。
とは言え、高圧洗浄機には遠く及ばない感じだが。
まあ、しつこい泥汚れとかではなく、吹き付けられたフェロモンを落とす程度なので、そこまで勢いがなくても良いのかも知れない。
これは実際に迷宮でアーミーアントのフェロモンを洗い流す実験を色々とやって試す必要があるだろう。
「これって人を洗い流すのにも使うんですよね?
あまり勢いがあると痛いかも?
あと、古い幌馬車とかだったら布地が破れる可能性があるかもですね」
エフゲルトが指摘した。
なるほど?
隆一は高圧洗浄機を買ったことも使ったこともないので詳しい使用上の注意は知らないが。
高圧というのだ。
人間に向けてはいけないと注意書きされていそうだし、痛いほどの勢いがあるのは問題かもしれない。
荷物を水から守るための幌を高圧水で破っていたら意味ないですねw




