1266.蟻対策:魔力(5)
水系の攻撃魔術はその水を周囲の環境から引き出すらしい。
だから砂漠のような場所では効果が落ちるし、周囲の水源がある程度汚染されている場合はそのまま浄化せずに飲むと体調不良を起こすことも多い。
ちなみにこの世界の外の水は魔物が上流で飲んでいる可能性が高いため、殆どの水がある程度は汚染されている。
慣れていれば飲んでも直ぐに腹を下さない程度の耐性を得られるらしいが、長期的に生水を飲むのは寿命を縮めるというのはこちらの常識である。
地球だったら一々水を沸かして飲むとなるとコスト的にかなり厳しいだろうが、こちらでは浄化の魔法陣などもあるので、農村や行商人・隊商などで川や井戸の水を飲む人々はそれで何とかするらしい。
王都内では井戸もあるが基本的にスラム以外では上水が整備されており、そちらは大元の取水地点で水が浄化されているので住民はそれを清める必要はない。
スラムの住民は元からある井戸を飲んで長期的には寿命を縮めるか、下町の方まで行って水道から水を入手するか、時間と体力的に余裕があるならば迷宮のポーション作成に使われる魔力水を持ち帰って飲む。とは言え、魔力水はポーション用に買取もされるので飲む為に持って帰るよりは売る人間の方が多いらしいが。
床にたまる水を集めて飲むなんてと隆一的には微妙に感じるのだが、実は迷宮内の水源は飲用出来るのだ。
食肉イチゴの消化液とかの泉でない限り。
ただし、何故か水系の攻撃魔術で出てくる水はあまり体に良くないらしい。
水源が大丈夫なのに、術で生み出す水はいったい何が紛れ込むのか、ミステリーである。
その点、創水の術は空気中の蒸気を凝縮して純粋な水を作り出すので味はまだしも、飲料して健康上の問題はない。
アーミーアント関連に関して言えば、迷宮内では創水の魔法陣を改造して安く小さな魔道具を作り上げる必要性はそれ程無い。
18階まで下りることができ、更に下を狙うような探索者だったらアーミーアントを倒せるだろうからフェロモンを落とす必要は無いのだから。
だからアーミーアントのフェロモン落としと飲料出来る水とを出せる魔道具は行商人や隊商向けと考えるべきだろう。
そんなことを考えながら、隆一はまず創水の魔法陣を使って魔道具を作り、水を出してみた。
「……なんとも味気なくて微妙だな」
魔道具からコップに注いだ水を味見した隆一は顔をしかめた。
「そうなんですか?」
エフゲルトが興味深げに尋ねる。
「飲んでみたらいい」
別のコップに再度水を注いでエフゲルトに渡す。
それを飲んだエフゲルトが首を傾げた。
「変な後味が無くて美味しいと思いますが?
まあ、確かにこの屋敷で出される水よりは味気がないとは思いますが」
そういえば、エフゲルトはスラムギリギリな下町の水に慣れているのだった。
多分スラム近くの下町では水道管もそれなりに錆びていたり汚れていたりで雑味が多いのだろう。
「う~ん、まあ味の好みは人それぞれだからな。
飲む際には活性炭のフィルターでも通したら飲みやすいかもだな。
レモンのスライスでも入れるのでもいいが、海ならまだしも地上の馬車旅だったらスライス用のレモンを持ち歩くのは難しそうだし」
というか、考えてみたらそれなりにハードな旅程を頑張らねばならない行商人や隊商だったらスポドリにする感じに塩と砂糖を多少混ぜたらいいのかも知れない。
それはさておき。
魔力量だ。
最初は普通に魔力測定器で作り出した水の魔力含有量を計測する。
「ふむ。
大した量じゃあないが、ある程度はあるな。
これでフェロモンの魔力を上書き出来るのか?」
アーミーアントのフェロモンの魔力量を測っていないので、どの程度必要かは微妙に不明だ。
取り敢えずホースで勢いよく水を出せるように魔法陣を変更し、ついでに魔力を付加できる仕組みも考えておくといいかも知れない。
魔物由来の素材を使った液体で魔力を含む落書きでもして、それを洗い流した際に魔力も上書きされているか、まずは試そう。
フェロモンに微細に油が混じっていると想定して、テスト用の液にも数滴油を足して、それを洗い流せるかも確認すると良いだろう。
「やっぱ血を薄めた液体で実験する方が直ぐに落ちなくて良さげなんだけどなぁ」
ぎろりと睨んでくるエフゲルトに肩を竦めながら隆一が呟いた。
取り敢えず出来る範囲で実験をして、後日迷宮で実際のフェロモン相手に試すしかない。
血って中々洗い流せないですよね〜




