1265.蟻対策:魔力(4)
「水矢や水球もしくは創水の術の魔道具ってあるのかな?」
錬金術ギルドに来た隆一は、顔なじみの受付の青年に尋ねた。
「攻撃魔術系の魔道具は商業ギルドか探索者ギルドで審査を受けないと購入できないんですよ。
自作するための魔法陣の閲覧も、審査が必要なんですが……申し込みますか?」
ちょっと申し訳なさそうに聞かれた。
「あ~。
まあ確かに、誰にでも危険な殺戮手段になる魔道具を入手出来たり作れたりしたら困るか。
じゃあ、創水の魔道具は?
探索者や隊商とかが使ったら便利そうだが、これも探索者ギルドや商業ギルドで売り出されているのか?」
普通に魔術師が街中でも水矢や水球を放てることを考えるとそれを模した魔道具の販売を制限することがどの程度町の住民の生活の安全に繋がるのかは不明だが、街中での使用よりも、街中で売り出して横流しされて山賊などに購入されたら困るというのが制限の理由なのだろう。
商業ギルドで審査を受けた隊商や行商人が攻撃魔術を模した魔道具を持ち歩いていて、山賊に襲われて撃退に失敗して奪われたら結局は意味がないと思うが。
もしかしたら定期的に承認コードでも打ち込まないと機能停止するような安全装置がついているのだろうか?
まあ、魔道具もそれなりにデリケートな精密機械と言える側面があるので、魔道具の使い方も良く分かっていない山賊が荒っぽく使ったら比較的直ぐに壊れそうだが。
「ちゃんと飲んでも安全な創水の魔道具はそれなりに高いか重いんで、水源がないルートを進む隊商程度しか持ち歩かないですね。
そのくらい高い魔道具を買えるような探索者パーティだったら魔術師が居るから自分のパーティメンバー用の創水の術ぐらいだったら何とでもなりますし。
ですが創水の魔法陣の購入だったらここで出来ますよ」
青年がファイルを取りだしながら言った。
創水の魔道具は重いのか。
飲料水用にすら持ち歩かないのだったら、遭遇しない可能性の方が高いアーミーアント対策に持ち歩くとは思えない。
と言うか、創水の魔道具を改良して軽くて持ち歩くしたうえで、飲料水だけでなくもしもの時のアーミーアント対策にも使えるという形にすればいいかも知れない。
「ちなみに創水の魔道具の改造版が出回ったりしたら困る人間っているのか?」
どこかの大きな工房の破綻になるような状況だったら困る。
まあ、そんな工房があるならばそこに新しい魔法陣を提供して新しい魔道具をそこが製造すればいいとも思うが。
「いえ、創水の魔法陣はそれなりに古いですから。
新しい特許の使用料を払って改造版の創水の魔道具を作るか、特許料が掛からない安い昔のを作るかは各工房の経営判断です。魔道具に改造版が発表されるのはそれ程珍しいことではないですし、問題ないと思いますよ」
にこやかに青年が答える。
なるほど。
新しい、より便利な魔法陣(と魔道具)が開発されたからと言って、全員が一気に新しい物の製造に乗り換える訳ではないのか。
安い昔のバージョンを買いたがる客だっているのかもなのだし、そこら辺は費用対効果を鑑みて決めるのだろう。
そして先の読めない工房は傾くのかも知れないが、世の中切磋琢磨と先読みが必要なのはどこの世界でも同じなのだ。
変な風に隆一が遠慮して改造版を世に出さない理由にはならない。
「じゃあ、創水の魔道具の魔法陣を見せてくれ。
古いってことはもう使用料を払わなくてもいいのか?」
書き写すのに金をとるが、隆一は見せて貰えればそれを暗記できるので自分で家に帰って描き出すからギルドで待ってやって貰う必要もない。
そこら辺は錬金術ギルドの青年も覚えているのか、あっさりファイルを開いて該当ページを隆一に見せた。
「これと、こっちですね。
此方が安いけど大きくて重いの、こちらは軽くて小さくなるけど魔法陣が複雑で必要な素材も高価な物が多くて出来上がる魔道具も高くなります」
魔法陣と、必要な素材や魔道具の形状に関する詳細に目を通して記憶した隆一はファイルを返した。
「ありがとう。
参考になったよ」
あとは改造版を如何にもっと手ごろなサイズと値段になるように作り、ホースっぽく魔力を込めた水を噴き出せるようにするかになる。
ホースを定期的に洗浄しないとそれから飲んだ水でお腹を下しそうw




