1263.蟻対策:魔力(2)
「まずは微細な魔力を確認出来るかチェックするために、ゴーレム素材とスライムジェルとエルダートレントを各種細かく砕いて水に解かし、吹き付けたのを測定できるか試してみるか」
どの程度アーミーアントのフェロモンの魔力が強いのかは不明だが、取り敢えず手元にある魔物由来の素材で適当に試して、どれも魔力測定器が認識出来なかったら自分の血で試して実際に魔力を視認出来ることを確認してみよう。
自分の血を何通りかに薄めてテストする方が楽そうな気もしないでもないが、エフゲルトの鋭い見張るような目付きから察するに、他の素材が全滅した後ならまだしも試しもせずに自分の血管を切り開こうとしたらザファードにチクられそうな雰囲気だったので、隆一はまずは無難な素材で試す事にした。
「それがいいですね!
先に元の素材の魔力含有量を魔力測定器で確認しておきますか?」
エフゲルトがほっとしたように聞いてきた。
「そうだな。
最初にそのままの状態の魔力含有量を測定して、その後に粉砕したらどうなるかを記録、吹き付けられるぐらいの濃度まで水で薄めた際の含有量も測定しておこう」
素材の魔力が抜けないように隆一邸に保管してある魔物由来の素材は魔石と一緒に置いてあるが、それでも時間が経てばそれなりに魔力が抜けていく。最初から魔力がすっからかんな素材を使って実験をしても意味がない。
そして粉砕したら魔力が抜けやすくなる素材だった場合はそれも要注意である。
という事で、硬石ゴーレムの石片、スライムジェル、エルダートレントの枝を適当なサイズに粉砕して魔力を測定。
「やはりスライムジェルの魔力含有量が一番少ないですね。
先日入手したポイズンスライムの素材を使いますか?」
エフゲルトがスライムジェルの魔力含有量を見て顔をしかめながら尋ねた。
「いや、流石にポイズンスライムの素材はちょっと危険かもだからな。
魔力測定器でギリギリ認識できるだけの魔力があればいいという事にしよう。
何だったら魔力を注ぎ込んでもいいし」
スライムジェルはそれなりに魔力の保持力があるので、少なくとも30分程度だったら最低限の魔力をキープするだろう。
ある意味、魔力含有量をこちらの求めるレベルに変更できるから、他の素材よりも実験に向いているかも知れない。
粉砕用魔道具にゴーレムの石片を入れて粉砕。
魔道具をしっかりクリーンした後、次はエルダートレントの枝を粉砕した。
「粉にしても直ぐには魔力は抜け落ちないんだな」
粉砕前、粉砕後、そしてエルダートレントを粉砕した後にもう一度測定しても、ゴーレム素材の魔力含有量はほぼ変わらなかった。
それを記録している間にエルダートレントの素材の魔力を測定・記録していたエフゲルトが声を上げる。
「こちらは徐々に抜けている感じです!」
「ふうん?
そういえば木材系は魔力定着用の触媒を混ぜないと劣化が早いって聞いたな」
トレント系の素材を線維化して使う際には魔力定着用の触媒を混ぜて錬金しないと直ぐに劣化するというのは以前錬金術ギルドで教わった。
触媒もそれなりに色々とタイプがあるのだが……取り敢えず定着材を利用せずに使ったらどうなるか、実験しても面白いかも知れない。
急いで各種粉を水に解かし、霧吹きモドキに入れて慌ててエフゲルトが持ってきた板に吹き付けて、試作品で確認する。
「おお~。
ちゃんと色が変化して見える!!!」
思わず隆一がやった!と拳を握った。
試作品は大抵数回は失敗しないとまともに機能しないことが多いのだが、今回は元々ある魔道具の改造版なせいか、ちゃんと最初から想定通りの結果に近い物になった。
色から見ると、ゴーレム素材が一番多く、エルダートレント、スライムジェルの順になっている。
「ちょっとこのスライムジェルに魔力を籠めたらどうなるか試してみるか」
スライムジェルの入った霧吹きに魔力視で見えるぐらい魔力を込めて、板の空いたスペースに吹き付ける。
「うわ!
俺の魔力視で見えるレベルになるとこんなに魔力が多いのか!」
一番魔力が多い白銀に近い輝きがスクリーンに映っているのを見て、思わず隆一は目を細めながら溜め息を吐いた。
どうも隆一の魔力視の精度はかなり大雑把らしい。
今度もう少し鍛錬した方が良いかも知れない。
「あれ、今再起動したらエルダートレントの素材の色が変わりましたね」
後ろからスクリーンを覗き込んでいたエフゲルトが指摘した。
「うん?」
エフゲルトに言われて、隆一はエルダートレント素材を噴き付けた場所を確認する。
確かに、最初に噴きつけた時と色が違っている。
魔力が抜けるのは分かっていたので、変色も意外ではないが……見ている時には変化していなかったのに、魔力補充済みスライムジェルのを確認しようと一度切ってからスイッチを押しなおした時に、色が変わったようだ。
もう一度試作品のスイッチを切り、再度起動する。
またエルダートレント素材の色が変化していた。
「これって起動したときの魔力に対して色を映し出して、その後の変化には対処してないのか?」
考えてみたら、リアルタイムで測定する仕組みではないのかも?
魔力測定器。
そこそこ前に開発して以来、忘れ去られて来た気がする……




