1262.蟻対策:魔力
「魔力測定器は薬草とかの魔力含有量を確認できるようにかなり微細な魔力でも測定できるようにしたが、あれでフェロモンに含まれる魔力を測定するのは面倒くさそうだな」
煌姫が帰った後、隆一は工房の中にある魔道具を見回しながら呟いた。
お酢を振りかけて何か効果があるかを試すにせよ、まずは魔力が残った状態であるか否かが観測できないと効果の確認が出来ない。
試薬はお酢を掛けたら化学反応を起こして変色しかねないので、他の手段で視認出来るようにしたい。
となると、魔力観測器か、魔力センサー用のヘルメットで観測できればいいのだが。ヘルメット型はそこまで精度が高くなく、観測機は決まった対象物をの魔力量を数値化する形なので、フェロモンが掛った場所から蟻の魔力が抜けたかどうか、確認するのにはあまり向いていない気がする。
「あの魔力観測器をヘルメットの形にするか、頭にかぶるのに適さない形になるならヘルメットのシールドを外してそれを目の前の魔力観測結果を見るスクリーンとして使えないか試してはどうですか?」
煌姫が来ている間は実験室の整理をしていたエフゲルトが隆一の呟きに応じて提案してきた。
「そうだな。
スクリーンに映し出した場所の魔力を数値ではなく色で表す形にして、精度を微細な魔力用に調整するか」
魔力センサー用のヘルメットは魔物や魔道具を見つけるのを主たる目的としていたので観測対象の魔力標準値がそれなりに多かったが、蟻のフェロモンに含まれる魔力は隆一が魔力視に集中しても感知できないぐらい薄っすらとした微細な量なのだ。
ヘルメットで観測できる標準値を下げまくったら頭にかぶっては使えないレベルになるだろう。
というか、迷宮のバックグラウンド魔力に紛れて観測できるのかも非常に怪しい気もする。
魔力観測器は薬草などに含まれる魔力含有量を調べるための魔道具なので、かなり細かい魔力を測定するのに使える。取り敢えずはあれをベースに、地面やデヴリンに掛けられたフェロモンや体液の魔力をモニターで観測できるようにするのは可能かも知れない。
デヴリン本人の魔力が邪魔だから、防具を脱いで確認しないと多分観測不能になりそうだが。
「数値だとイマイチ噴き付けられた体液やフェロモンの魔力かバックグラウンドなのか分からないから、出来ればモニターに色の変化で見て取れるようにしたいな。あと、標準値を迷宮の階段とか床あたりの魔力濃度に設定して、それからプラス数単位分の微細な魔力の濃度を見て取れる形にしないとだな。
標準値の設定さえ調整可能なようにすれば、あとはセンサーと観測機の機能を加工したらそれなりに作れそう……かな?」
紙に変更点を書き出し、以前作った魔力観測機の魔術回路と魔力用センサーの魔術回路を比較しながら必要な修正を加えた新しい魔術回路を描き出してみる。
「う~ん、これって確認するのに適当に血でも垂らして観測してみれば良いかな?」
試作品が上手く機能するかどうかはやってみなければ分からない。
デヴリンとダルディールを巻き込んで態々迷宮18階まで行って試す前に、家で実験したいところだが、どこかに吹き付けた液体の魔力を観測しようと思ったらやはり生き血が良さそうな気がする。
流石に冷凍庫に入れた魔物の肉の汁を垂らしてもあまり魔力は残っていなそうだ。
「いやいやいや、魔力がある素材を粉砕して水にでも溶かして吹き付けてみたらどうですか?!」
エフゲルトが慌てて隆一に提案した。
「回復術を掛ければスパッと切った血の傷跡なんて直ぐに治るんだけどな。
大量に流すつもりはないし。
……だがまあ、確かに生き血では魔力含有量が多すぎるかも知れないから、魔力があるけどそれ程多くないって分かっているゴーレムかトレントの素材を砕いて水に混ぜて吹き付けてみるか」
エフゲルトの慌てた顔を見て隆一が自分の最初の提案を撤回した。
まあ、隆一だって他人が自分の体を切って出血して実験しようとしたら止める。
そう考えると自分の体だし、自分で回復できるからと言って安易に体を切り裂いてしまうは良くないだろう。
昔開発した魔道具を引っ張り出す!
壊れてた!なんて事がないと良いんですがw




