1260.何をやっているんだか:煌姫(2)
「迷宮内の魔物って同じ個体の複製が多いんだ?
なんかこう、ラノベにあるようなエルフやドワーフと言った知的生命体が迷宮内から出てきたら、クローン人間的な感じになりそうで物凄く複雑な心境ね」
会話を出来るエルフが迷宮の最下層辺りに集落を作っていた場合、何らかの理由で死んでも同じ個体がリポップしてくると考えると確かにかなり微妙な心境になる。
ただ単に襲い掛かって来る狼男程度だったらまだいいが、エルフがリポップとか、絶対にやめて欲しい。
「そういえば最下層のドラゴンななんかは経験を蓄積するから悪賢くて戦いも危険度上がるとデヴリンが言っていたな。
会話は出来ないんだろうが、ライバル的な感覚を抱いていたのにリポップされて何も覚えておらず、賢さも消えていたらかなりやる気が失せそうだ」
ちょっと顔をしかめながら隆一が言った。
「悪賢くて危険な相手がもっと簡単に倒せるようになるなら安全で良いじゃない」
此方を殺そうとしてくるドラゴンに対してライバル的な好意に近い感覚を抱くのはちょっと分からない感覚だが、どちらにせよ殺したら知恵の蓄積が消えるとなると、迷宮内の魔物の一環としてエルフが存在したとしても、殺したら記憶の蓄積が消えるのだろう。
マジでリポップする知的生命体はなしにして欲しい。
ふうっと溜息を吐きながら隆一が首を横に振った。
どうやらお互いに理解は無理だと諦めたようだ。
「そういえば、あまり能力基準値が上がる前だったら下層の魔物の肉を食べると多少は成長が早くなるし、回復スピードも向上するらしい。
17階のアーマーボアかバターブル、もしくは16階のイチゴでも取ってこようか?
探索して基礎能力値を上げる手間が多少は下がる筈だ」
隆一がケーキに手を伸ばしながら聞いてきた。
「そうねぇ、多少なりともよくなるならいいかも?
だけど。それよりもこう、器用度が上がる食材ってないのかしら?」
基礎能力値は魔物を倒せば上がると言うのは事実らしいが、どう言う戦い方をしたら何のパラメータが上がるという知識の積み重ねはあまりない。自分としては筋力や魔力よりも器用さを上げられると嬉しいのだが。
「おっと。
足の速さとか傷の回復スピードとか、枯渇寸前まで使った魔力の回復割合とかは色々と実験して貰ったが、器用度アップと言うのはチェックしていないな。
チェックのしようもない気がするし」
ちょっと目を丸くしながら隆一が答えた。
「こう、100本の針に糸を通すのにかかる時間が短くなるかの実験とか?
特定の食材を食べて時間が早くなるなら器用度アップに貢献しているのかも?」
ジュエリーメイキングに関してはアイディアも重要だが指先の器用度が不可欠だ。
これを改善出来れば技術も上げやすいだろうに。
「それって単に針に糸を通すのに慣れたってだけじゃないか?
まあ、それこそすでに裁縫をやっている下町やスラムの女性住民辺りにテストしてもらっても良いが。
テスト対象の食材を何するのか、悩ましいところだな」
首を斜めに傾げながら隆一が言った。
「どうせならメロンとかイチゴとか、果物に効果を確認してみて、何かあったら嬉しいわね。
肉をがつがつと毎日食べる羽目になるよりは、毎日のデザートにフルーツを一個取り寄せるっていう方が幸せになれそう」
高くても、器用度を上げる為と思えば投資として買える。
もしかしたら技術向上用に資金援助してくれる職場もあるかもだし。
「あまり大量に同種の果物ばかり食べているとアレルギーを起こしそうな気もするけどな。
確か日本で働いていた時の同僚が、メロンが好きであの大きなのを週に2個ぐらい自分一人で食べてたらそのうちアレルギーになって食べると口の中がイガイガするようになったと嘆いていた」
ついでに桃もダメになったと悲劇的な表情で言っていた。
メロンと桃と言ったらお祝いやお見舞いでもらう事が多そうな高級食材だ。
アレルギーになったと血の涙を流しそうな顔をして職場にお裾分けとして貰った物を持ってきていた。
「ふうん?
ちゃんと色々と種類を混ぜ合わせたミックスにすればいいと思うんだけどね。
それじゃあ実験にはしにくいかしら?
回復術でアレルギーって治せないの?」
色々と魔法のようなことが可能らしいのに。
「病気はまだしも、アレルギーはなぁ。
食べた時のアレルギー反応で起きた炎症を抑えるのは可能だけど、アレルギーを起こさないように免疫システムのプログラムを修正するのは厳しいんじゃないかな」
残念そうに隆一が言った。
おや?
彼にもアレルギーがあるのかしら?
アレルギーはコピーされた時にリセットされてますが再発を警戒してます




