1259.何をやっているんだか:煌姫
職場に同郷人の隆一からメッセージが届いた。
『イチゴのショートケーキとフルーツのロールケーキを提供できるが、久しぶりにお茶でも飲みに来ないか?』
隆一が提供するスイーツとなったら探索者ギルドのタルニーナさんかその部下による物の可能性が高い。
これは是非とも受けるべき誘いだろう。
用がなければ声を掛けてこないあの唐変木がなんで急にお茶の誘いを掛けてきたのかは不明だが。
◆◆◆◆
「久しぶりね。
最近はどうしているの?」
早い目のアフタヌーンティーの時間に隆一邸に行ったら、以前自分がアリスナに伝えたアフタヌーンティーセットのような3段スタンドになったトレーにちょこちょことスイーツや軽食を載せたものが出てきた。
幸いなことにスイーツに関してはショートケーキやロールケーキ、ついでにフレッシュフルーツが別の大皿に置いてあるのでお代わり自由な感じらしい。
これなら昼食を軽めにしておいた甲斐がある。夕食分もここでがっつり食べていこう。
婚約者としてデートで外に出ていた時は流石にがっついて食べている所は見せていなかったが、今となれば単なる友人(?)兼同郷人でしかない。
見栄を張る必要はない相手だ。
「最後に会ったのっていつだったっけ?
最近は新たに18階に降りてちょっと鍛錬や研究を再開しているな。
その前は下層と中層の魔物の素材を食べることで回復力とか魔力とかに何か違いが出るかの実験をしていた。
その更に前は群れで出る魔物の歯形とかを取って個体差に関して調べていて、別の街にある迷宮にも少し足を延ばさせてもらった。
……そこら辺の話ってしたかな?」
少し首を傾げながら隆一が応じた。
まったく。
数字が載っている書類などを見せたら3年後でも内容を覚えているというのに、最後に人に会ったのがいつかとか言ったことはかなりいい加減にしか覚えていないのだ。
『研究』>>『人付き合い』な本人の価値観が良く分かる。
本当にこいつと結婚しなくて良かった。
まあ、一緒に暮らしていればそれなりに価値観に修正を加えるなり、我慢できる妥協点をお互いに見出していったりしただろうが、同郷人程度の大して感情的な思い入れのない関係の方が気楽な相手だ。
「どれも聞いていないから、最後に会ったのは他の街に行く前なんじゃないかしら。
王都以外の街はどんな感じなの?」
移動自体が馬車か、軍や国家元首級の移動に使う飛行船しかないというかなり偏った選択肢になる上、馬車で移動したら道中で魔物や盗賊に襲われる可能性がそれなりにある世界だ。
他国からの誘拐リスクも高いので、王都から出ることは取り敢えず諦めている。
いつか隆一が開発している飛行機モドキが一般に普及したらプライベートジェット的な使い方でせめて国内を気楽に旅行出来たらいいかもと思っているが、取り敢えずはジュエリーで作ってみたいアイディアや習得したい技術がまだまだあるので、王都を出る必要はない。
好奇心はあるが。
「やっぱどこも人間の暮らしている街って感じか?
それなりに政治的・商業的な利害関係があるし、招かれ人は誘拐リスクが高いしで、あまり気ままに動き回れる感じはないな」
あっさり隆一が夢のない答えを寄越した。
「あらま。
態々別の街にまで行って魔物の歯形を取るって、何の研究をやっていたの??」
他の街に行ったという話にまず注意が引かれたが、他の内容も突っ込みどころ満載だった。
「いやぁ、リポップする魔物が倒したのと同じ個体なのかとか、違う群れの魔物は全部違うのかとか、気になってね。
本当だったら遺伝子をマッピングして迷宮の魔物に血縁関係が存在するのかとかも確認したかったが、流石にそれは無理だからせめて歯形を確認してみようと殺しまくったコボルトとホブゴブリンの歯形を比べてみたら、意外にも同個体が沢山いてね。
どうも迷宮内は10から20ぐらいのプロトタイプが存在して、それが適当にリポップしているようなんだよ」
隆一がティースタンドにあるサンドイッチを手に取りながら楽しげに答えた。
うわぁ。
隆一も魔物を倒しているんだ?
まあ、それなりに迷宮に探索に行っているんだし、魔物を倒した方が基礎能力値が上がるので護衛役よりも自分が倒す方が良いとは自分も言われているが。
ちょっと理系なひょろり体型の隆一がガンガン戦って魔物を倒しているというのは想像しにくい。
倒した後に歯形を取っているというところが彼らしいが。
ある意味、隆一はあまり『男』として見られてなかった??




