1251.18階(12)
「今日はアーミーアント関連で色々と調べたい」
ブラックライトや色々な試験薬やルミノールの混合液などを運搬具に積んで持ってきた隆一は、朝に迷宮前で合流したお守り役の二人に宣言した。
ちなみに、昨日のうちに18階の魔物のテリトリーのマッピングは大体終わり、アーミーアントのフェロモンが階段の半分を超えた時点で消えるらしいという事は確認できている。
アーミーアントが吹き付ける物が純粋に彼らの魔力なのか、物理的に何か液体を吹き付けているのかはこれから実験することになる。
迷宮の階段を移動するだけで消えるとなると、純粋に魔力をマーカーのような形でぶつけているだけな気もしないでもないが、フェロモンが魔力だけというのもちょっと考えづらい気もするので、何か物理的に吹き付けていると期待して、色々とテストするための材料を持ってきたのだ。
どれを使ってもフェロモンを目に見える形で判別できなかったら、しょうがないからアーミーアント対応用に水洗いのできる魔道具でも作るしかない。
というか、フェロモンが物理的に目で識別できるようになったところでそれを洗い流すための魔道具は必要なことに変わりはない。
ただ単に、識別する手段が無かったら手当たり次第に外の空気に触れていた部分をすべて洗い流すしかないだけだ。
というか、魔力をマーキング用にぶつけているのだとしたら、外部だけでなく、服の中とか荷馬車の内部に魔力がしみ込む可能性だってある。
そう考えると中々頭が痛そうな問題ではある。
「まあ、良いが。
だけど現実的な話として、行商人や探索者がアーミーアントにうっかり出くわす可能性を考えて色々と魔道具を持ち歩くのは難しいぞ?」
デヴリンが運搬具に山積みにされている瓶や器具に目をやりながら指摘した。
「まあな、それは分かっている。
というか、どこまでフェロモンが掛るかを視覚化出来たらそれを落とすのにどの程度の魔道具が必要かが分かるだろう?
何だったら荷馬車モドキを持ち込んで馬車内部までフェロモンがしみ込むかのテストも、迷宮内の制御できる環境でなら手っ取り早くテストできるし」
荷馬車は転移門に使えない気がするから、階段で18階まで荷馬車を引いて降りてくるのは大変そうだが。
というか。
「……荷馬車のような物って転移門を通れるのか?
運搬具を通る時は引っ張ってこれているが」
考えてみたら、転移門に馬を通せるのかも知らない。
それに馬車に妖精の手を付けまくって軽くして手で引くことは可能かもだが、それをアーミーアントのテリトリーまで持ち込み、階段のところまで追いかけられるのはちょっと大変そうだ。
「手で動かせる物しか転移門で移動させられないから、人力で動かせる程度のサイズな荷馬車しか持ち込めないな」
ダルディールが言った。
考えてみたら最下層のドラゴンとか大型魔物の素材を持って帰ることもあるのだ。
それなりに大きなサイズを転移門で動かせるようにしないと、ドラゴン等の素材を捨てることになる。
「昔って半重力魔法陣が手軽には使えなかったんだろう?
ドラゴンとかを倒した時って素材をどうやって持って帰ったんだ?
手で押せるサイズの荷馬車や運搬具で運ぶとなったら至難の業なんじゃないかという気がするが」
ドラゴンと言ったらそれこそ大き目の蔵ぐらいのサイズがあると隆一的には想像していたのだが。
もしかして、異世界のドラゴンは運搬具に乗るサイズなのだろうか?
そう考えるとかなり興ざめだが。
いや、デヴリンでも一人で倒すのは至難の業と言っていた魔物なのだ。
そこまで小さいという事はないだろう。
「ドラゴンは魔力含有量が多いせいか1月ぐらいは劣化しないからな。
それなりに体力が残ったパーティメンバーが居たら一人か二人下に残ってドラゴンの死骸が迷宮に飲まれないようにして、その間に残りのメンバーが地上層まで上がってギルドから解体と運搬要員を連れてきて、蟻が動物の死骸を巣に持ち帰るように、細切れにして持って帰るのさ」
ダルディールが言った。
「うわ~。
パーティを分けて最下層部に残るのと、最下層部から少人数で上がって来る人間とに分かれるのか。なんかこう、折角迷宮の最下層の魔物やフロアボスを倒せたのに、ギルドまで連絡出来る前に全滅しちまったパーティもいそう」
というか、それこそ悪いギルマスとか領主がいたら、上がってきた探索者を殺すか手を抜くかして、下に残った探索者を殺して高額な素材を横領しようと思いつきそうだ。
そう考えると、妖精の手は最下層を攻略できるような探索者の生存率を上げるかも?
宝箱一つでも殺し合いを始めちゃうのが探索者ですからねぇ。




