1250.18階(11)
「さて。
17階に一度戻ったが、この後またさっきのアーミーアントの群れに近づいてテリトリーの外まで追いかけられるかを確認、来なかった場合はちょっかいを出して追いかけられるようにして階段まで戻る。
で、その後また17階に行ってから降りてくればいいのか?」
階段まで行って走って戻ってきたデヴリンが隆一に尋ねた。
そこそこの距離を合計で走る羽目になった筈だが、全く息が上がっていない。
「群れに近づいて反応を見て、追いかけてこない様だったらちょっかいを出してフェロモンを食らってから逃げて、階段に行った際は2段分ぐらい動いてからもう一度出てきてアーミーアントの反応を見て、追いかけるようだったらまた階段に戻って更にもう少し降りて出て来て、追いかけられたら階段に戻って更に降りてって感じで徐々に17階に近づいて、階段の途中でフェロモンの効果が消えるのか、それとも17階まで踏み入れた時点でフェロモンが消えるのか、確認してもらえるか?
面倒そうで悪いが」
隆一がちょっと申し訳なさそうな顔をしながらデヴリンに頼んだ。
どうせ実験するのである。
どこでフェロモンが消えるのか、しっかりと確認したい。
「なるほど?
階層を超えたら消えるのか、それとも階段に踏み入れたら消えるのか、もしくは階段の半分以上進んだら消えるのか、確認したいのか。
ちなみにそれって何か意味があるのか?」
あっさり頷いてアーミーアントのテリトリーの方へ進みながらデヴリンが尋ねる。
「微妙なところかな~。
階段のどこで消えるのかを確認して、『何』が消えるのかのテストもしたうえで、その『何』を消す手段について実験してみたいんだ。
水洗いで落ちたんだから物理的な液体を掛けられているのかも知れないが、もしかしたら水球に含まれる魔力のせいでフェロモンの魔力が相殺されて消えるのかも知れないしで、どの時点で体についているかを確認する必要があるんだ」
隆一が説明した。
まあ、根本的な問題としてアーミーアントのフェロモンを消す手段を見つけることがどのくらい重要かは微妙なところだが。フェロモンが魔力的な何かであるか、物理的な液体であるかがはっきりすれば外でアーミーアントの群れの被害が出そうな場合に群れを逸らすのに利用できる知識の可能性はある。
迷宮内のアーミーアントと外の野良アーミーアントの群れのフェロモンが同じものであれば、であるが。
「へいへい。
そんじゃあまあ、頑張って来るわ」
デヴリンが軽く手を振って、アーミーアントの群れの方へ走り出した。
「そういえば、アーミーアントの群れが大繁殖を起こしたり、そうじゃなくても大群になって村や隊商を襲ったりすることってあるのか?」
隆一がダルディールに尋ねた。
「大繁殖よりもうっかり村や街道の傍に巣が出来てるのに気づかなくて出てきたアーミーアントを全滅させずにずるずると巣から援軍が来る状態で逃げる羽目になって隊商が全滅したり、村や町にアーミーアントの群れを引き込んで大騒ぎになったりという事は何年かに一度はあるな」
ダルディールが顔をしかめながら言った。
「そうなんだ?
だとしたら、珍しく今回の実験は俺の好奇心を満たすだけでなく、現実社会でも役に立つ結果が出るかもなのか。
というか、アーミーアントのフェロモンを確実に消す方法って知られているのか?」
「魔術師がしっかり魔力を込めてクリーンの術を掛けるとか、水球の水で水洗いするのが唯一知られている方法だが、外で隊商なんかが襲われた場合だと馬車や馬に気付かぬうちにマーカーの臭いが掛かっていて、それを落としていなかったから夜中に追いつかれたなんて事態になることは多い」
ダルディールが言った。
視線の先では一度アーミーアントのテリトリーに入り、引き返しているデヴリンの姿がある。
どうやら階層を超えたら確実にフェロモンは消えているらしく、アーミーアントはデヴリンがテリトリーを出たらすぐに追跡を止めた。
次はちょっかいを出してからの検証だ。
此方は時間が掛るだろう。
「そうなると、出来ればアーミーアントのフェロモンがついていたら色が変わるか何かで見つけられる試験薬っぽいのがあると良いのかも知れないな。
というか、先に一度ブラックライトか何かを投射してみて目に見えるか試してみたら面白いかも?」
確か殺菌用の魔道具に紫外線を使うのがあった筈。
あれでブラックライトを投射する懐中電灯モドキを作ってみて、反応するか確かめてみよう。
蟻に食い殺されるなんて嫌やわ〜。




