1249.18階(10)
「そういえば、アーミーアントって階層を超えたら追ってこないらしいけど、階段で上か下の階に移動した後に戻ってきたらどうなるんだ?
階段に行く前に戦っていた群れに出会ったら再度追いかけられるのか、それとも別の階に移動したらマーキングはリセットされて再度近接戦闘をしない限り追いかけられないのか?
あと、群れを全滅させずに臭いが着いた状態で他の群れの所に突っ込んだらそっちからも延々と追いかけられるのかな?」
アーミーアントにちょっかいを掛けたルートへ戻りながら隆一がお守り役の二人に尋ねた。
アーミーアントの行動パターンについては『近距離で戦闘してマーカーを付けられたら他の階に移動するまで果てしなく追いかけられる。群れを全滅させたら他の群れに出会っても特に追いかけられはしない』としか教わっていない。
群れを全滅させていない状態で他の群れに突っ込んだら、実質同じ個体から吹き付けられたフェロモンなのでそちらからも追いかけられると思うが、どうなのだろうか。
「あ~。複数のアーミーアントの群れに追いかけられるようなうっかり者が無事に逃げ帰れることはほぼないから確証はないが……多分追われるんだろうな?
アーミーアントの群れに追われて逃げている間に滅茶苦茶大きな群れを引き連れる形になって階段近辺まで来てしまって他の探索者まで動きが取れなくなって罰せられた探索者の話を時々聞くから」
ダルディールが言った。
「ふむ。
で、階段を超えて他の階に行って戻ってきた場合は?」
階層を超えたら消えるのだとしたら、迷宮内のアーミーアントのフェロモンは何か魔術的な効果に近いのかも知れない。
群れが全滅したり、群れの魔力の範囲外である違う階層に行ったら消えるというのだったら物理的な液体を吹き付けられたとは考えにくい。
「う~ん、アーミーアントの群れにうっかりマーキングされて逃げる羽目になったら階層を超えろと教わるが、戻って来るなとは警告されないから、戻っても大丈夫なんじゃないかな?」
デヴリンがちょっと首を傾げながらダルディールを見て言う。
「多分?
やっちゃいけない行動に関しては規範が色々と記されているが、やっても問題がないことに関してはギルドも態々リストアップしてないんだ。やったら危険だと特に書かれていないから、大丈夫なんじゃないかと思う」
ダルディールが頷きながら付け足す。
「よし!
じゃあちょっと一回17階へ戻ってからもう一度出てきて、再度接触して追いかけられる状態で他の階に移動した場合、戻ってきても追いかけられないのかしっかり確認してみよう」
階段の方へ引き返しながら隆一が言った。
一応、先ほど追跡を止めたから水洗いでフェロモンが落ちたと思われるしがっつりクリーンも掛けてあるが、新たな実験をするなら真っ白な状態で始める方が良い。
「へいへい。
取り敢えず、17階に行って戻ってくれば良いんだな?
直ぐに戻るからそこで待っていてくれ」
小さく溜息を吐きながらデヴリンが階段の方へ走って戻って行った。
「こう……アーミーアントに近づいてフェロモンを掛けられた場合に、それを無効化するような物質を見つけられたら便利かな?
まあ、がっつりクリーンの術を掛けられたらそれでいいのかもだが」
待っている間に隆一がダルディールに尋ねた。
18階は特に採取的に美味しい階層ではない気がするが、それこそポイズンスライムに何か使い道が見つかったり、他の迷宮でアーミーアントと同居する高額買取される素材があるかも知れないのだ。
魔力を使わなくても消臭剤のような何かを吹き付けてアーミーアントのマーキングを消せれば、それはそれなりに便利な筈。
「クリーンの術ではそれこそ魔術師がかなり真剣に魔力を込めて集中しながらやらないとアーミーアントに再度追いかけられることが多いらしいからな。
ポーションの様に決まった品質の薬を持って行って掛ければ何とかなるのだったら便利な場合もあると思う。
難しいとは思うが」
ダルディールがちょっと難しい顔をしながら応じた。
「他の階に行ったら消えるとしたら、それこそ階段ではまだ残っているのか確認して、階段で色々と実験する必要があるかも知れないな。
まずはホルモンに反応する試薬でも見つけて掛けられたマーカー自体を見つけないとだし」
ある意味、がっつり奇麗に水洗いする魔道具を開発する方が早いかも?
そこまで色々と実験して研究開発するだけの価値があるか、先に確認すべきかもw




