1248.18階(9)
「くっせ~~!!!」
かなりの俊足でアーミーアントから距離を稼いだデヴリンが、隆一達が居る場所から少し離れた、だが元来た方向でまだテリトリーの主である魔物がリポップしていないところへ進み、隆一が渡した臭いチーズの袋を開けてわめいてる。
「地面に撒くのと共に、自分にもアーミーアントからフェロモンを吹き付けられたと思われる個所に擦り付けてみてくれ!」
隆一が声を大きく上げてデヴリンに指示する。
アーミーアントは嗅覚と視覚重視なのか、大声を上げてもそれほど反応しないという話を聞いているからの行動だ。
「うげげげげ~~!!
これを自分の防具に擦り付けるのか?!」
デヴリンが嫌そうな声を上げる。
「水をぶっ掛けて洗い流すのと、クリーンの術を掛けるのとでそれなりに落ちると思うし、最後に上に戻った時にドアマット型掃除魔道具の上で暫くウロウロすれば、きっと全部落ちる!」
多分。
隆一が横からデヴリンの後を追いながら告げる。
考えてみたら水をぶっ掛けて洗うのは隆一がした方がいいかも知れない。
デヴリンだって生活魔法程度なら使えるが、水を出すのはちょろちょろ程度だし、クリーンの術にしても『そこそこ奇麗になる』程度なので、チリ一つ無くなって綺麗になる隆一流のクリーンの方が良いだろう。
「臭いが落ちなかったら完全洗浄する料金を請求するからな~!」
デヴリンが嫌そうに地面にばら撒いたチーズの一つを手に取り、腕の辺に擦り付ける。
どうやらフェロモンを掛けられるだけの距離に近づいた時に、腕を出したらしい。
とは言え、風に乗って体全体にもある程度臭いがついているだろうが。
そのまま様子を見ていたら、アーミーアントはちょっと臭いチーズをばら撒かれた場所で混乱したかのようにウロウロしていたが、その後またデヴリンの後を追跡し始めた。
どうやらチーズではフェロモンの臭いを消せなかったらしい。
「じゃあ、次は水をいくぞ~!」
更に数分走ってアーミーアントから離れたところで、水球を準備してデヴリンに声を掛ける。
「はいはい」
溜め息を吐きながらデヴリンが立ち止まる。
止まったデヴリンを覆うような感じで水球を押し付け、汚れを落とすようなイメージで少し上下に動かしてから水を下に流す。
「びしょびしょだな」
デヴリンが溜息を吐きながら更に移動する。
追ってきていたアーミーアントは下に流れた水の辺でウロウロし始め、やがて諦めたように戻っていった。
「へぇぇ、水洗いで大丈夫なんだ?
取り敢えず、クリーンも掛けるな」
アーミーアントが引き返した後にデヴリンに合流した隆一が、ちょっと息を抑えながら言った。
水洗いでは臭いチーズを全部は落とせなかったらしい。
「水球をぶつける程度では五分五分程度と聞いたが、ああいう感じにぐいぐいと洗うような感じで水を押し付けたらフェロモンも落ちるんじゃないか?
下手をすると溺れそうな気もするが」
クリーンで水分も落とされて髪の毛や防具が渇いたデヴリンが防具の中に触れて状態を確かめながら言った。
「そうか。
というか、どうせびしょ濡れになった状態を解消するためにクリーンを掛けるんだったら、最初からクリーンをがっつりかけてフェロモンが消えるか確認したいところだな。
次のアーミーアントの群れで確認しよう」
隆一が頷きながら言った。
ちょっと今回のアーミーアントの群れは周囲の環境が汚染されたというかさっきのフェロモンがまだ残っている可能性があるのでテスト結果が信用できない。
「まあ、良いが。
アーミーアントの群れに効果があっても、もっと下層の蟻系の魔物に効果があるかは不明だぞ?」
デヴリンが指摘する。
「確かに?
次に出るのってどこだっけ?」
ラインアップではあまり蟻系の魔物を見た記憶がないが。
「25階でヘルアントの群れが出ることがある。
だが25階の魔物は適当に動き回っているから、どれに行きあたるかも分らないし、あっちはそれこそ周囲の魔物全部を討伐し尽くしておかないと魔物を引き連れて歩き回る実験をするなんて出来ないぞ?」
ダルディールが口を挟む。
確かにテリトリーの外に魔物が出ない階層だったら既に通ってきて討伐した場所へ戻る形でアーミーアントを引き連れて動く分には安全だったが、テリトリー自体が緩くて魔物がそれを無視して集まる25階では下手に蟻系魔物の行動を確かめようと群れを引き連れて動いたら、MPKをしまくった挙句に自分たちも死にそうだ。
「……まあ、参考ということで」
取り敢えずやれる実験は全部やっておきたいが、他の階層で通用するとは考えないでおくほうが無難そうだ。
哀れデヴリン。
副団長に登り詰めたのに何故か下っ端の汚れ仕事をする羽目にw




