1247.18階(8)
「お、今度はアーミーアントだ」
ポイズンスライムを倒し終え、18階を動き回っている間にアーミーアントのテリトリーに入ったのか、群れが隆一達の方へ動いてくるのが魔力感知で感じられた。
「あ、ちょっとあいつらの動きを観察したいから、接敵せずに下がってみてくれるか?」
隆一がデヴリンに頼む。
ダルディールは基本的に隆一の傍を離れないので、隆一が後ろへ戻ればダルディールも自動的に動くから頼む必要はない。
まあ、何をしているのか説明する方が好感度が下がらないだろうが。
「ほいほ~い」
デヴリンがあっさり頷き、隆一と一緒に元来た方向へ数メートル下がった。
「お、群れがこっちに来るのを止めたな。
テリトリーから出たっぽい」
魔力感知でアーミーアントの魔力が隆一達の方へ近づくのを止めて、元居た方に戻り始めたのを感じ取って隆一が頷きながら、一歩前へ進む。
特に何も起きない。
もう一歩前へ。
アーミーアントの魔力の塊は相変わらず動きを変えない。
更にもう2歩ほど進んだら、アーミーアントの魔力がこちらを観察しているかのように動きを止め、もう一歩進んだら隆一達の方へ動き始めた。
「ふむ。
ここがアーミーアントのテリトリーの境界なのかな?」
隆一が呟き、2歩ほど戻る。
どうやら2度もテリトリーに入ってこられると警戒度があげられるのか、先ほどと違いアーミーアント達はそのまま元居た方へ戻らずに、ちょっとウロウロとテリトリーの端近くで動いている。
ふむ。
「ここから2歩ほど前に入って、接敵せずに斬撃で一体倒して直ぐにこっちに戻って来てくれるか?」
隆一がデヴリンに頼む。
群れの一部を殺したら、テリトリーの外に戻ってもある程度は追ってくるのだろうか?
フェロモンを付けられたら階層を移動するまで追いかけられるという話だが、直接接敵せずに敵対行為を取った場合はどうなるのだろうか。
「よっ!」
デヴリンが斬撃を飛ばし、一番前にいたアーミーアントの頭を切り飛ばした。
突然の仲間の死に驚いたようにアーミーアントが一瞬動きが止まったが、すぐさま動きを倍ぐらい早くして隆一達の方へ走り始めた。
「ちょっと逃げよう」
どこまで追って来るのか、確認したい。
隆一の体力が尽きる前に止まってくれると良いのだが。
そんなことを考えながら急いで元来た道を戻ったら、30メートルぐらいでアーミーアントの群れの動きが止まり、テリトリーの方へ戻っていった。
「仲間を殺せばテリトリーから出て追って来るが、ある程度で止まるんだな。
考えてみたらコボルトとかホブゴブリンの群れで一部を殺して逃げたら追って来るか確認し忘れたが、どうするのか知っているか?」
隆一はダルディールに尋ねた。
コボルトとホブゴブリンは歯形を確認するためにひたすら虐殺しまくっていたので、テリトリーの外まで追いかけてくるかを調べるのを忘れていた。
「視界に居たら多少はテリトリーの外まで追って来るらしいが、20メートルぐらいで止まると聞いた気がする」
ちょっと首を傾げて自信なさげにダルディールが応じた。
コボルトやホブゴブリン程度だったら一々逃げるよりも殲滅した方が楽だから、群れの一部だけを害した場合にどうなるかの行動原理を確認する重要性を感じていなかったのだろう。
とは言え、フェロモンを付けたら延々と追って来るアーミーアントだからか、フェロモンなしでも追って来る距離が倍ぐらいになるようだ。
「よし、次はフェロモンをどうやったら落とせるか、実験したい。
一匹接敵した状態で倒して逃げてきてくれるか?」
デヴリンに隆一が尋ねる。
「逃げても良いが、リュウイチはこっちで待っていてくれ。
群れを皆殺しにしちゃ駄目なんだろ?
だとしたらお前が延々と走る羽目にならないように、別行動の方が良い。
一匹倒して何をしたらいいんだ?」
デヴリンが応じる。
「取り敢えず一匹倒して本当に延々と追いかけるのかを見たいのと、クリーンの術を掛けたらどうなるかの確認、水を掛けて洗うのもどの程度すればいいのかの確認と、もっと臭いがきつい粉をばら撒いたら追いかけるのが止まるかも確認したい」
アーミーアントのフェロモン効果のテスト用に、臭いのきつい腐ったチーズ(一応食べられるので腐っているという言い方は間違っているのかも知れない)をアリスナから貰ってきているので、それでアーミーアントを混乱させる効果があるのか知りたい。
「おいおい。
こんなのを俺がばら撒くのか?」
保存袋に密封されたチーズを渡され、その袋をそっと開いてみて慌てて閉じたデヴリンが情けない顔をして尋ねた。
「自分に付かないように、頑張って地面にばら撒いてくれ。
勢い良く投げずに、地面に置く形にするといいかも?」
チーズの強烈な臭いがどの程度蟻の魔物に効果があるのか不明だが。
流石に今回は本気で追いかけてくるだろうと想像できるので、隆一は離れた場所で待つことに。
フェロモンの匂いとブルーチーズ的な強い臭いとが蟻にとって同じ扱いになるか否かが問題ですよね




