1246.18階(7)
「う~ん、浸食性の毒を飛ばされるとなると実験もしにくいなぁ」
18階を歩き回って3体目のポイズンスライムに出会った隆一は結界を張ってちょっと悩んでいた。
細心の注意を払って核を傷つけぬよう、かつ外さないように火、水、土、風、氷の矢の攻撃魔術を撃ちこんでみたのだが、取り敢えずどれもそこそこ耐性があるというか、傷がついた後に比較的直ぐに元に戻っている感じだった。
最後に試した氷矢に関してはちょっと反応が鈍かった気がしたので更に風矢で攻撃したらこちらも反応が鈍かったので、どうやら5発程度攻撃されると体力(というか魔力?)が枯渇し始めて回復能力が減退するようだ。
これはこれで良いのだが、次に毒とスライムジェルとを採取したいと思った隆一は困っていた。
「倒してから採取して実験するのでは駄目なのか?」
悩んでいる隆一にデヴリンが声を掛ける。
「なんかこう、結界で囲っていた中で毒を吐きまくったから、倒してもスライムジェルが毒まみれになっているだろう?
毒にしても、地面にべっちょり落ちて溜まっているから土が混ざっているし。
奇麗なサンプルが欲しいんだ」
鑑定するにしても、出来れば純粋に鑑定する対象だけを選べるとやりやすい筈。
「あ~。
確かにちょっとぐちょぐちょだよなぁ」
隆一の結界の中で毒の水溜まり(毒溜まり?)に半ば沈んでいるポイズンスライムの姿を見てデヴリンが微妙な顔をした。
「次回来る時にガラスの大き目な容器を持ってきてそれに閉じ込め、水洗いして中の水を抜いてから回復してもう一度毒を吐くまで待ってから色々実験したらどうだ?
そこまでどれだけ時間が掛るかは不明だが」
ダルディールが提案する。
「そうだな。
ちょっと中に穴が開いた格子状の仕切りっぽい物があるガラス容器でも作って、上から水で洗って下から汚れを排水出来るような形にしてみるか」
ついでに今回は棒で核を貫くのがどの程度簡単かも試してみよう。
運搬具に入れてある血抜きなどに使う棒を取りだし、結界の上からポイズンスライムの核の位置を見極めてぶすっと刺す。
あっさりポイズンスライムがべちゃっと潰れて死んだ。
「あれ、結界って自分が振るった物だったら通すのか?」
デヴリンが少し不思議そうに尋ねる。
「結界を少し変質させて、指定した物質を通すようにしたんだ。
ガラスなどの容器も通すようにしたら、結界でとらえた後に持ってきた容器に閉じ込めやすいだろう?」
蜘蛛系やスライムなどの小型な魔物を結界でとらえた後に何らかの容器や檻に入れたいと思う状況があるかもと、以前練習したのだ。
通す対象を定義づけしないとならないので突発的な利用には難しいが、自分が迷宮に持ち込む物にマーカーを付けて定義づけしておけばそれなりに使いどころはある……かも知れない。
実際に使うのは今回が初めてだが。
元々、足止め用魔道具ばかりを使っていて、迷宮内で結界を使う事はほぼないのだ。足止めしない場合はダルディールの盾で守って貰っているし。
まあ、ダルディールにいつでも助けてもらえるとは限らないので、結界の練習もそれなりにしておくべきなのだろうが。
「結界で武器を通せるならそれはそれで色々と便利そうだな。
知らぬ間に防御結界に手を加えられて敵の武器や矢などを通せるようになっていたら致命的だが」
デヴリンがちょっと顔をしかめながら言った。
確かに、お偉いさんの公務なんかで死んでは困る人が公衆の前に出る際に、襲撃などを受けた場合に備えて結界を張っていたのに、それが矢を素通りさせるような設定に手を加えらえていたらヤバすぎる。
「う~ん、軍とかで使う防御結界って魔道具で展開するのが多いんだよな?
勝手に手を加えたら、分からないか?
いや、魔道具だからこそこっそり手を加ええるのは難しいか?」
手を加えて半年後ぐらいにそれを利用されたりしたら中々困りそうな気もする。
「ちょっと今度フリオスに、そういう結界のすり抜け定義っていうのに関してどの程度知られていて対策を取られているのか、聞いてみるよ。
もしかしたらフリオスが詳しく話を聞かせてくれと突撃しに行くかも知れんが」
デヴリンがちょっと申し訳なさげに隆一に言った。
「まあ、フリオスだったら先に連絡くれるだろう。
別に構わんよ」
自分が防御結界で守られる可能性もあるのだ。
防御結界の穴に関する研究に協力するのはいいことだろう。
定義づけしたら武器も素通りし放題じゃあ困りますよねぇ




