1245.18階(6)
アーミーアントをデヴリンがスパスパと切り倒して群れを全滅させたところで、解体を始める。
アーミーアントの場合は魔石が必ず採取する素材で、荷物運びに余裕がある場合はその外殻も採取するらしい。それなりに防具に使い道があるとのことだった。
がっつり魔物の体の各部位を鑑定して何か新発見がないかを探すのは、18階のマッピングを終えてテリトリーの境界がはっきりしてからやる予定なのだが、ちょっと先にこの外殻に関してだけはどの程度の魔術耐性があるのか知りたいので、デヴリンが外した外殻を手に取り隆一は鑑定してみた。
「鑑定」
『AKDE267(通称:アーミーアント)#B2:蟻系魔物の外殻:魔防効果あり。硬度4。魔力が通っている状態だと硬度が最大7まで上がる』
「おい。
魔力を通しているとアイアンゴーレムよりも硬いのか?!」
思わず隆一が驚きの呟きをこぼす。
ミノタウロスの棍棒よりは硬くないとは言え、鉄の塊であるアイアンゴーレムより硬くなりうるとはびっくりだ。
しかも魔防効果があるらしいから魔術も効きにくいようだし。
ちょっとこの魔防効果もどの程度なのか、確認すべきだろう。
魔防布よりも効果があるなら、外殻を砕いて板状にして使ったらいいかも知れない。
砕いたらダメでも、適度なサイズに割ってスケイルメイルっぽい感じに繋ぎ合わせて軽くても強くて魔防力のある防具になるかも知れない。
作り上げる労力がかなりのものになるかもだが。
だが、魚の鱗のような小さな鱗メイルにしなくても、取り合ず平らな部分という事で掌サイズぐらいの平らな外殻タイルっぽい物なら採取できそうだから、それを繋ぐ程度だったらそこまで手間もかからないかも知れない。
「魔力を通すのが大変らしいぞ?
なんかこう、魔力で覆うような感じにしないとその強度の維持できないと聞いた気がする」
ダルディールが横から指摘した。
おや。
何らかの魔道具に組み込む形にして魔力を供給し続けられないか、試してみる必要がありそうだ。
確かに探索の最中に防具に魔力を流し込み続けなければならないというのはちょっと問題だし、魔力枯渇のリスクもある。
魔石で効率的に魔力を通し続けられる形に出来たら、防具としてもぐっと使い勝手が良くなりそうだ。
まあ、簡単な魔道具だったら既に開発されているだろうから、そう簡単には出来ない可能性が高そうだが。
隆一にしたところで、魔法陣は実在するのを修正するのは得意だが、全く一から作るとなると知らぬ単語は出てこないので、難しいし。
外殻を剥いだ後のアーミーアントの肉や触覚や手足、内臓もざっと鑑定してみたが、こちらは特に興味をひくものはなかった。
まあ、蟻の部位を薬なり食材なりとして使う気はイマイチ起きないので、幸いだったのかも知れない。
「よし、じゃああとはこの階をひたすら動き回って魔物のテリトリーのマッピングを確認しよう!」
今回の群れに居た7体のアーミーアントの外殻の取りやすい部分を運搬具に積み込み、魔石だけ回収して残りを捨てて一行は動き始めた。
暫く進んでデヴリンがオーガを倒し、そのまま進んだ先でデヴリンが足を止めて隆一の方を見た。
「分かるか?」
足を止めたことで高められた集中力で周囲を更に念入りに魔力感知で探る。
「お! 魔力の塊を発見!!
これがポイズンスライムか!」
オーガより小さく、アーミーアントの様に群れていない魔力の塊が前方の地面に居る。
「さて、結界を張ったら閉じ込められるのか、試してみよう」
足止め用ではなく、普通の防御結界を内向きに半球形でポイズンスライムの周りに展開する。
隆一の魔力を感じ取ったのか、結界を張る寸前ぐらいに動き始めたが、幸いにもちゃんと結界の中に閉じ込められた。
「お~。
ガンガン毒を吐いているな」
ぴゅーぴゅーと毒を吐き出しているポイズンスライムのせいで結界の中がびしょ濡れというか半ば沼みたいな感じになってきた。
地面も少し溶けるのだろうか?
このまま待っていたら結界ごとダンジョンの床に沈んでいったらそれはそれで面白いが……そんなことを考えながら見ていたら、だんだん結界が弱って来るのが感じられたので、更に魔力を充填して強化する。
「う~ん、次はガラスのケースを持ってきて、この結界の上からガラスケースを被せて結界を解除したらそのまま閉じ込めておけるのか、実験してみよう。
その前に、今回は攻撃魔術で倒せるかだな」
本来ならばまだデヴリンに任せるところだが、取り敢えずどの種類の魔術が効きやすいのか確認しておきたいので、攻撃魔術を属性ごとに叩き込んでみることにする。
「風矢!」
結界を通して中のポイズンスライムに当たったが、核に命中しなかったせいでザクっと切れた後には直ぐにほぼ元の状態に戻っている。
「土矢!」
此方も外した。
が、風と違って土の矢がそのまま暫く残っているせいでポイズンスライムの再生に邪魔なのか、ずるりとポイズンスライムが土の矢の周りに移動するような形で動いてから再生している。
「火矢!」
丁度核に当たり、じゅわっとポイズンスライムが燃えてくたっと水たまりのような形になった。
倒せたらしい。
「う~ん、核に当たらなかった場合にどうなるのか確認し損ねたな。
次は核に当てないように攻撃してどうなるのかチェックしないと」
溜め息を吐きながら隆一が言った。
はっきり言って、どんな攻撃がどの程度効果的なのか、良く分からない実験になってしまった。
ポイズンスライムのサイズだと、核以外の部位に攻撃を確実に当てるのも回数を重ねると確率論的に難しくなってきそうな気もするが、取り敢えず頑張ってみよう。
ラグビーボール大の対象に攻撃を当てつつも急所は外すって実は繰り返すのは難しかったりw




