1244.18階(5)
「何か群れっぽい複数の魔力があちらに集まっている?
あれがアーミーアントか?」
オーガを倒してもう少し進んだところで群れっぽい魔力の塊に気付いた隆一がデヴリンに尋ねた。
「おう。アーミーアントは名前の通り、群れで襲ってくる。
しかも基本的に臭いでマーキングするから一度戦うとテリトリーの外まで追ってくることがあるから、至近距離で接敵して倒しきれないとなった場合は階段まで最短距離で走って逃げろ。
勿論、他の探索者を巻き込まないように気を付ける必要があるが」
18階に来ることが決まった段階で注意事項は知らされていたが、念押しの為なのかデヴリンが再度アーミーアントの注意点を告げる。
宝箱がある25階までは基本的に王都迷宮の魔物はテリトリー制で、そのテリトリー内だけで襲ってくることが多い。
各魔物のテリトリーが端では多少被っている個所もあるのでうっかりしていると複数の魔物と戦う羽目になることもあるが、どれかの魔物のテリトリーの真ん中で戦い、その魔物を倒した場合はリポップするまでは比較的安全になるのが王都迷宮の特徴でもある。
が、18階はちょっと変則的な例外が発生する。
「アーミーアントのフェロモンであいつらを呼び寄せてしまうのだったら、一つの群れを倒しても、別の群れの傍を通ったら実際に接敵していなくても追われて襲われないか?」
個体が複製されている迷宮産の魔物が吹きつけてくるフェロモンなのだ。
一つの群れのアーミーアントのフェロモンは別の群れのフェロモンと違いがない可能性が高い。
「迷宮内だと、その群れを全部倒したら吹き付けられたらしき臭いも消えるんだ。
外だとそうはいかないが、外だと別の群れが近くに巣を作ることはほぼないから、一つの地域で見かけるアーミーアントは同じ群れの仲間で、その臭いも群れの臭いという事で追いかけられることになる。
まあ、外のアーミーアントだったらそこまで執拗に追いかけはしないが」
ダルディールが答える。
「うん?
外のアーミーアントだったら時間経過か距離で追跡を止めるのに、迷宮内のアーミーアントは止めないのか?」
ちょっと首を傾げながら隆一が尋ねる。
「ああ。迷宮内のアーミーアントは一度臭いを擦りつけられたら、奇麗に洗い流すか、階段経由で別の階層に逃げ込むか、群れを全滅させるかしない限りずっと追って来るんだ。
まあ、そこまで極端に階層が広い訳じゃあないから適当に逃げていれば階段に辿り着ける筈だが。一度実験で学者が探索者を雇って群れを殲滅させずに只管逃げ回って貰ったら、1日半経っても止めなかったらしいぜ」
デヴリンが笑いながら言った。
なんと。
1日半も只管逃げまくる依頼を受けた探索者もご苦労様なことだ。
そこまで追いかけまわるのはちょっと意味のない行動なようなので、一種のバグなのだろうか?
「だったらアーミーアントは遠距離の攻撃魔術で殺すのが一番っぽいな」
下手に足止め用魔道具で拘束したからと近づいて剣で止めを刺そうとなんてしたら、フェロモンを吹き付けられかねない。
確実に遠距離攻撃で倒すべきだろう。
「まあ、斬撃でもいいんだが。
アーミーアントは氷と火と土のランス系の魔術には弱いが水と風は効きが悪い。
斬撃は関節を狙わないと外殻の上を滑ることもある」
デヴリンが剣を取り出してブンっと振りながら言った。
あっさり斬撃が手前のアーミーアントの頭を切り飛ばす。
どうやらここもまだ、デヴリンクラスの探索者の適正レベルではないらしい。
「ちなみに虫って呼吸器官が哺乳類と違うから、洗濯石鹸的な界面活性剤で水をはじく油分を無効化すると溺れやすい筈なんだが、そういうのって魔物にも効くのかな?」
Gを殺すのにも洗剤を溶かした石鹸水を掛けるのが良いと聞いたことがある。
まあ、実際に隆一が試した時は慌てていたせいで石鹸水ではなく台所用の中性洗剤を掛けたが中々死なず、逃げるGに向けてぴゅーぴゅーかけまくったお陰で洗剤を落とし終わるまでに床が泡だらけになった記憶がある。
はっきり言って、G向けの殺虫剤の方が絶対に効果があったと思う。
石鹸水はG向けの殺虫剤を買う時間もしくは資金力がない人向けの裏技なのかも知れない。
というか。
考えてみたらGは昔ながらに新聞か雑誌でバシッと叩くのが一番なのかも?
ただ最近では雑誌や新聞も電子版が多くなったから、家でGを倒すための新聞を確保するのも難しいかも知れないが。
それはさておき。
石鹸水もしくは何かそこそこ強力な界面活性剤をアーミーアントにぶっかけたらどうなるのだろうか?
殺虫剤と新聞の一撃、どちらが確実なんでしょうね?




