1242.18階(3)
サクサクと15、16、17階を通り過ぎた3人は18階へと足を踏み入れた。
18階では大きな岩が所々露出しているちょっと凸凹な野原っぽいフィールドが右側へと広がり、左側には森がある。
「ちなみにポイズンスライムの毒ってどう避けるべきなのか? 完全回避一択か、盾で防ぐとか、結界で弾くとか、色々と方法はあると思うがどれが一番理想的なんだ?」
周囲を見回しながら隆一が尋ねる。
今までは遠距離攻撃そのものが殆どなかったが、魔物の攻撃は隆一が戦いに慣れるまでは基本的にダルディールが対処してくれた。だが毒性というのだったら吐き出された毒を盾で止めると盾の素材がボロボロになったりしないだろうか?
「まあ、理想としては毒を吐かれる前に遠距離攻撃で倒すのが一番いいな。
間に合わなかった場合は攻撃を避けるか、盾で受ける感じになるかな?
盾で受けても直ぐに生活魔法の水で流せば問題ない」
ダルディールが応じる。
なるほど、直ぐに洗い流せばいいのか。
「ちなみにポイズンスライムの毒って浸食性なのか?
防具に着いたら気付いたら穴が開いていたなんてことになるのは困るが」
蛇の毒でも肉を溶かして血管まで毒を届かせる効果があるタイプのものもある。
元々スライムは酸性で人間を溶かす魔物なのだ。
そう考えると吐き出す毒そのものも人間や装備を溶かす効果があっても不思議ではない。
「じゅわっと装備が解けるほどではないが、かかったのを放置しているとそのうちボロボロになるな」
右側へ足を進めながらデヴリンが応じる。
魔力感知で周囲へ注意を払いながらゆっくりとデヴリンの後をついて行ったら、突然デヴリンがザシュっと斬撃を飛ばした。
「ポイズンスライムだ」
数メートル右の岩場にデヴリンが踏み込み、隆一を振り返って足元を示す。
覗き込んで見たら、ラグビーボールぐらいのサイズのスライムが核を切られて形を失い、でろんとなるところだった。
スライムは溶けて形を失なってしまうので、いまいち討伐後の鑑定がしにくい。
「ちょっと結界にでも閉じ込めて鑑定してみたいから、次は見つけたら倒さずに声を掛けてくれないか?」
デヴリンに頼み込む。
先ほどのポイズンスライムは居るのを感知できる前に倒されていたので、これは完全にデヴリン頼りだ。
「おう。
だが結界に張り付かれると魔力を補給し続けないと侵食されて案外と直ぐに破れるらしいから、気を付けてくれよ」
デヴリンが頷く。
「面白い発見があったらガラスのケースを持ってきてそれに閉じ込めるのもありかもだな」
流石に危険な魔物を外へ持ち出すのは許されないだろうが。
「頑丈なのにしてくれよ。
ポイズンスライムが顔に張り付いたりすると、目や口から体内に入り込まれて普通に手足に取りつかれたときと比べるとずっと早く、あっという間に死ぬこともあるんだ」
ダルディールがちょっと心配そうに応じる。
「う~ん、だったら頑丈なガラスケースに入れて、探索者ギルドの会議室か倉庫でちょっと実験をさせてもらうのって駄目かな?」
流石に高級住宅街にある隆一邸に危険な下層のスライムを持ち込むのは無しだとは思うが、18階の魔物に襲われる可能性がある場所で呑気に危険なスライムの観察・実験を行うのもあまり勧められたことではないだろう。
「研究のために魔物を迷宮から連れ出すには色々と厳密な承認手続きがあるし、実験施設も決まったところで厳重に管理されているんだ。
ずぼらな探索者が大量にいる探索者ギルドでは『厳重に管理』は無理だってことでそう言う実験は許されていなんだよ」
苦笑しながらダルディールが言った。
なるほど。
考えてみたら、探索者ギルドの職員には元探索者が多いのだ。それなりに大雑把な『いざとなったら力技で対処しよう』的な人物がそれなりに多い可能性は高い。
そこに単体で分裂・増殖しかねない危険な魔物が解き放たれるかもしれないような実験をするのは危険すぎるのだろう。
「う~ん、取り敢えず結界で閉じ込めて調べて、もっと色々と調べたいとなったら15階でどこかのゴーレムを拘束して邪魔しないようにしてからそのテリトリーで実験するか」
王都迷宮の下層上部辺りまでは魔物のテリトリーが比較的はっきりしているので、テリトリーの中央部分だったらそこの魔物を倒さずに無力化すれば邪魔が入らずに色々と実験も出来る。
まずは18階の魔物の分布とテリトリーの線引きを確認していくことにしよう。
観察はまだしも、実験は後回しだ。
毒性の強いスライムはイマイチ使い道は無さげ?




