1241.18階（2）

「豆の入手は後で良いとして。

　取り敢えず、15階まで転移して、18階までそのまま降りて最初は俺が倒すという感じでいくのか？」

　デヴリンが転移門を目にして尋ねる。

「ああ、いつも通りにまずは18階を一通り歩き回って魔物も倒してもらいながら色々鑑定しまくるつもりだから、最低でも今日一日は俺は戦わずに見物に徹しさせてもらう。

　18階はポイズンスライムとオーガとアーミーアントだって話だよな？

　どんな感じなんだ？」

　隆一がデヴリンの問いに頷きながら聞き返した。

　ついでに16階で帰りにイチゴを採るのもいいかもだが、これはどの程度運搬具(リヤカー)に空きが残るか次第だろう。

「ポイズンスライムは名前の通り、毒のあるスライムだ。

　普通のスライムだって酸性で触れれば怪我をするが、ポイズンスライムは毒を飛ばしてくるので即座に洗い流せなかった場合は解毒剤かキュアポイズンを掛ける必要がある」

　ダルディールが細かい説明を始めた。

「そういえば、スライムって1階のはのろのろ寄ってきて消化しようとするだけで多少物理攻撃が効きにくいって程度で、11階のは物理耐性が強くなった上に魔術もどれかの属性に対して耐性があるが、遠距離攻撃するのは今まで見ていないな。

　他の場所のスライムでも余程下層に行かなければそんなものなのか？」

　ラノベではスライムの危険度や攻撃手段は大幅に違いがある。

　物理攻撃と魔術攻撃両方に耐性があるとなったらかなり危険なのは当然のことだが、遠距離攻撃、しかも毒という継続的ダメージが効く攻撃というのは一気に難易度が上がる感じだ。

「いや、攻略されていない迷宮だと酸を飛ばしてくるスライムが中層辺りで出てくる事が多いな。

　スライムジェルは危険度が上がっても然程有用性が変わらないし、魔石は普通の中層の魔物と特に違いがある訳ではないから、そういう遠距離攻撃をするスライムは意味がない！と初代ヴァサール辺境伯が主張して攻略済み迷宮からは排除されたらしい。

　ポイズンスライムは致死性が高いから他国の迷宮で襲われてうっかり死なないように、探索者に馴染ませるために態々下層で出すようにしたらしいぜ」

　デヴリンが笑いながら言った。

　なるほど、無駄に危険で有用性がないから遠距離攻撃をする普通のスライムはラインアップから排除したが、そういう攻撃をするスライムに全く馴染みがないというのは危険だという事で下層で練習用に出てくるようになっているのか。

「ちなみに、ヴァサール王国の探索者って下層まで行けるようになってから他国に行くのか？」

　下層まで行く前にさっさと他の国に移って遠距離攻撃をするスライムに負けそうな気もするが。何といっても中層まで良ければ一人前扱いなのだ。

　さっさと他国の未攻略な迷宮で腕試しをしたいと考えるような探索者が多いのではないだろうか？

「ヴァサール王国から他国に行くにはそれなりに金が掛かるからな。

　まずしっかり装備を揃えて、腕を上げておこうと思ったら王都迷宮の下層ぐらいまで行けるようになっておくべきというのがギルドのスタンスだし、探索者にもそう言い聞かせている。

　で、下層に行けるんだったらそのまませめて25階まで行けるようになって宝箱探しをしてから他を挑戦しようってことを考える奴が多いかな？

　まあ、せっかちで一流な装備を集めなくても自分の腕なら大丈夫だとさっさと他国に行く奴らもいるが」

　デヴリンが探索者事情を説明してくれた。

　なるほど。

　中層を探索できれば一人前と評価されるとは言え、それこそ大規模迷宮を攻略できるぐらいな一流として活躍するにはそれなりな装備が必要であり、それを購入し、それに見合った腕を持つためには下層まで行ける程度が望ましいのか。

　というか。

「ちなみに、中層に居るような探索者って、なんでもっと下に行かないんだ？

　やはり危険性が高まるからなのか？」

　ふと隆一が少し気になったことを尋ねた。

　王都迷宮で見かける探索者のボリュームゾーン的には中層に一番人が多いのだ。

　一流になれる人間というのはそこまで少ないのだろうか、それとも一流になったらもっと他の未攻略迷宮に挑戦したくなるのが探索者というものなのだろうか？

「この迷宮の中層は技能的もしくはチームの構成的に中層以下が難しくて足踏みしている探索者と、まだもっと下に行くつもりだがまずは金を稼いで装備を揃えようとしている探索者が多い感じかな？

　元々、王都迷宮は攻略禁止だからね。ここは未攻略迷宮の制覇を諦めて家族との生活を重視することにした元一流探索者と、近いうちに他に行こうと思って腕試し的に最下層へ挑戦しようと思っているような若いのしか来ないって感じかな？」

　ダルディールが苦笑しながら説明した。

　どうやら王都迷宮の下層や最下層は攻略を諦めた一流探索者のたまり場的な扱いに近いようだ。