1240.18階
「下層の食材を食べれば能力値が上がるとか、回復速度が上がるという効果はどうやら一定以上鍛えた人間にはあまりないようだ。
俺程度だったらまだ現時点では14階とか17階の肉を食べるよう意識すれば効果が出るかも知れないが。
取り敢えず、帰りに17階か14階で肉や果物を採取するが、久しぶりに階層を下げて18階に行こうと思う」
隆一は王都迷宮の前で会ったデヴリンとダルディールに告げた。
暫く色々と趣味に偏った研究をやりまくっていたので、いい加減真剣に探索を再開した方がいいだろう。
まあ、騎士団にしても探索者ギルドにしても、下手に隆一に下の方へ行こうと頑張られるよりは色々と研究をして何か役に立つ成果を出してもらう方が嬉しい可能性もあるが。
「あ~。
魔力の回復量がちゃんと肉を食べるだけで増えたって話だっけ。肉の種類はほぼ影響ないのはちょっと想定外だったな。
フリオスが非常にがっかりしていたよ」
デヴリンが笑いながら言った。
「そうなのか?!」
ダルディールが驚いたように尋ねる。
「近接戦闘職の騎士に関しては、新入りはまだしもベテランだと肉の階層を変えてもほぼ違いはなかった。
新入りだと傷の回復が多少早かったので、中堅までぐらいの探索者だったら出来るだけ下層の食材を食べることが推奨されるが……金がないだろう」
怪我をしたにもかかわらず、しっかり回復師に治してもらうだけの余裕がない時に下層の食材を食べると効果が高いが、それを食べる資金力がないのもその時期なのだ。
「ふむ。
つまり、へまをかまして怪我をして装備品も補修が必要になったからと、食事でケチると却って回復が遅れるということか」
ダルディールが顎を撫でながら言った。
「一流どころまで鍛えた人間だったらあまり違いはないようだが、そこまでいかない中堅どころとか……もしかしたら魔術師タイプでも怪我をちゃんと治す余裕がないなら下層の肉に効果があるかもな」
というか、一流どころだったら金に困らないだろうからちゃんと回復師に診てもらえるだろう。
とは言え、自然治癒に任せた方が良い部分もあるだろうから、それを考えたらがっつり下層の肉を意識して食べるよう推奨しておくのはいい事なのかも知れない。
魔術師はどうも肉よりも甘い物や野菜が好きな人間が多いようだし。
「魔術師に探索中はしっかり肉を食った方が魔力の回復量も増えるぞと知らせるのはいいことだろう。
流石に探索に出ている最中に騎士団の拠点で訓練中の時みたいに甘いので誤魔化す者は居ないだろうが、がっつり肉を食べるのを好まない人間は肉の摂取量自体が少ない場合もあるからな」
デヴリンが指摘する。
どうやらこの世界ではベジタリアンは魔術師に向かないらしい。
というか。
タンパク質が重要なのだったら、下層の大豆か何かがあったらそれを食べたらどうなのだろう?
大豆をずんだ餅みたいな感じに甘味にしたら魔術師に人気があるかも知れない。
「あまり意識したことがなかったから覚えていないんだが、豆って迷宮内で取れるのか?」
3階のカボチャやニンジン以外はあまり野菜類は認識してこなかったが。
「豆類は外の農地で輪作する際に育てることが多いからな。
確か王都迷宮では採れないんじゃなかったか?」
デヴリンがダルディールに尋ねる。
どうやらデヴリンも豆にはあまり興味がないようだ。
「どこかの層でオマケっぽい感じに多少取れた気がするが……どこだったかな?
後でスフィーナに聞いてみるよ」
ダルディールもはっきりとは覚えていないらしい。
「その王都迷宮で採れる豆を多めに買わせてくれ。
外で育てた豆と合わせて何か甘い菓子を作って魔術師に食べさせた場合に魔力の回復量が変わるか、実験してみたい」
あまり豆のパイって美味しそうなイメージではないから、ずんだ餅みたいにあっさりした味わいの餅っぽい食材がないか、今度アリスナに聞いてみないと。
此方の米は長粒種なのであまりもちもちした食感ではないのだが、大根ですら大根餅になるのだ。片栗粉でもうまく使えば餅っぽい何かは出来るだろう。
それが美味しいと受け入れられるかは不明だが。
『急いで戦闘の合間に飲み込んだら喉に詰まった〜?!』




