1239.肉チェック(19)
「何か面白い結果は出てる?」
魔術師の回復量実験が始まって4日目。隆一は実験結果を聞きに騎士団を訪れていた。
肉のことが気になった為、王都迷宮の更に下の階層へ進むのはいったんストップし、ここ3日程は17階のバターブルやアーマーボア、14階の穴兎を狩りまくって只管ダルガスとアリスナに燻製して貰っていた。
もしも下層の肉を食べる方が魔力が回復するというのなら、燻製肉をビーフジャーキーっぽい感じに探索中のスナックとして持ち歩き、随時食べていたら魔力の回復に役に立つかも?と思ったのだ。
別に効果が無くても、美味しい燻製肉は常に需要があるし。
ダルガスの燻製肉は実験に色々と協力してもらった騎士団にある程度差し入れするつもりでもある。
「実は。
魔術師はあまり肉をがっつり食べない人間が多いのですが、実験の為に決まった量の肉を意識して食べたら魔力の回復量が増えることが判明しました」
フリオスが苦笑しながら教えてくれた。
「うん?
それってきつい鍛錬をしたから基礎魔力量が増えたとか、バターブルの肉を食べたからではなく??」
ちょっと隆一としては想定外な結果なのだが。
少なくともフリオスはそれなりにがっつり食べている人間だと思っていたが、騎士団の魔術師にはもっと食が細い人間が多いのだろうか?
「最初の3日間は連日限界まで魔術を放った場合に何か目立った成長が起きるかを確認するためのテストだったのですが、こちらは特に変化はなかったのです。
で、昨日。被験者全員に決まった量の肉を出して食べさせたのですが……バターブルの肉を食べた人間も、突進牛の肉を食べた人間も、何人かの回復量が上がったんですよ。
詳しく調べてみたところ、特に変化がなかった人間はそれなりに肉を食べる人間で、増えた者は食が細くて肉をあまり食べないタイプでした」
何とも微妙な顔をしつつフリオスが付け足す。
どうやら騎士団の人間でもがっつり大食いな訳ではないらしい。
隆一が泊りがけで遠出した際には魔術師タイプと近接戦闘タイプの騎士でそこまで食べる量に違いがあるとは思わなかったのだが、どうやら遠征(?)中ではない騎士団の拠点にいるときの食事は自分の好みに合わせて量も変える人間がいたようだ。
「魔術師の方が食が細いのか?
そりゃあ近接戦闘タイプ程重い装備を身につけたまま走り回ったりしないから同じだけは食べないだろうとは思っていたが、魔術師だって騎士ならばそれなりに体力が必要だからしっかり食べているだろう?」
何といっても魔力をガンガン使えばそれなりにカロリーも消費するから、騎士団でまともに鍛錬していれば魔術師であろうと体重管理は問題にはならないのだ。
だとしたら食べる量を節制する必要もないだろう。
「いやぁ、魔力は肉よりも甘い物の方が出る気がするんですよねぇ。
だから野菜の他は果物や菓子で腹を膨らませる人間も多かったようです。
私も考えてみたら、差し入れがあった時なんかは好きなだけ菓子を食べて、腹に入る残りのスペースに肉や野菜を食べていましたから」
フリオスがちょっときまり悪そうに頭を掻きながら告白した。
なるほど。
ある意味、体形維持が難しくないからこそ、自分の好みに合った食べ物を好きなように食べているらしい。
流石に走ったり重い武器や防具を担いで動き回る近接戦闘タイプの騎士たちは肉をしっかり食べなければ体力が持たないだろうが、基本的に魔力を練って放つだけな魔術師系の騎士はそこまで体力の維持を気にしなくていいから、栄養バランスに関して無関心だったらしい。
ガキの食生活かとちょっと言いたくなった隆一だった。
隆一の場合は買ってきたケーキやパイで腹を満たしすぎて出された夕食を残すとアリスナに睨まれるので、ちゃんと食生活のバランスはとれている。
そう考えると、肉をしっかり食べたら回復量が上がったというのは隆一には当て嵌まらなそうだ。
「つまり、甘い物を食べる方が魔術を使うのに適しているというのは気のせいだった?」
脳に栄養を回すのには甘い物の方が良いという説もなきにしもあらずだが。
「魔力を練って魔術を放つのには甘い物を食べている方がやりやすい気がするので、ちょっと追加でそちらも調べるつもりですが、魔力の回復量に関しては甘い物ではなく、肉をしっかり食べている方が良いようですね。
意外にも突進牛とバターブルで違いは現時点では見当たりませんが、これはもう少し実験を続けて確認します」
ちょっと残念そうにフリオスが言った。
突進牛とバターブルで違いがないならば、燻製肉で追加テストをする必要はない。
テストをしなくても差し入れで出すつもりではあるが、それだと全員で分けることになるし、ちょっとフリオスにとっては残念な結果になったようだ。
『折角、ダルカスの燻製をたっぷり食べられると思ったのに……!』




