1237.肉チェック(17)
「よっと!」
此方へ突進してくるバターブルにクロスボウから足止め用魔道具のボーラを打ちだす。
大分と慣れたお陰か、一発でバターブルの左前脚と左後脚に巻き付いてバターブルを転倒させた。
「氷矢!」
首元に魔力増量な氷矢を叩き込み、更に近寄ってショートソードで肋骨の間をぬってザクっと心臓に刃を刺したらあっさりバターブルが動きを止めた。
「お見事!」
デヴリンが手を叩いて褒めてくれた。
デヴリンだったら斬撃で一発なのだろうが、そこまでいかないにしてもかなり手早く倒せるようにはなってきた。
この調子で腕を上げていけば、これなら25階の宝箱へ挑戦できるだろうか?
ここから下は未知の階層なので、どの程度余裕を持って戦っていけるかは不明だ。
色々と寄り道をしまくったお陰でそれなりに基礎能力値も最初に17階に来た時よりはかなり上がってきた筈だし、将来に期待したいところである。
やはり、迷宮と言えば、宝箱だし。
そんなことを考えながら隆一はバターブルの肉と脂を切り分けていった。
皮も一応売ったら悪くない値段が付くので、そちらも剥いでおく。
骨も失明者用の魔力感知で読むインクに使えるので、ある意味無駄はない。
他の魔物だってこのぐらいの階層まで潜れば骨を魔力感知用インクに使える筈だが、肉を持って帰らない魔物を解体して態々骨を取り出すのは時間の無駄なので、肉が素材になる魔物の骨をついでにもっていくのが一番時間的効率がいい。
「中に積んである棚が二段にしてあっても、バターブルだと2体で一杯な感じだな」
解体した各種部位を運搬具に積み込みながらちょっとぼやく。
こういう時は、本当にラノベに出てくるようなマジックバッグが欲しい。
ラノベでは高くて入手するのに数年かかることも多いようだが、何といっても隆一には異世界人基金があるのだ。
一気にそこから金を借りてマジックバッグだって購入できただろう。
そうしたら倒した魔物の素材もガンガンため込み、1日1回上に戻るだけで済んだのだが……現実にはマジックバッグは存在しない。
空間魔術関連の魔法陣がないとマジックバッグは作れないと過去にレティアーナ女史がこぼしたらしいのだが、隆一に空間魔術関連の何らかの才能が出てきてくれないだろうか?
自分の分だけでもいいので、マジックバッグを作りたい。
自分の分を作ったら、秘密にしておいてもそのうちバレて他の人の分も作って売ってくれと煩く言われそうだが。
「過去には中型の迷宮を攻略した探索者がダンジョンマスターに『まじっくばっぐ』とやらを頼んだことがあるらしいが、結局それを国に売ることで爵位と領地を入手して探索者を辞めたそうだ。
で、国の方は国宝としてその『まじっくばっぐ』を後生大事に抱え込んだから、結局探索者でそういう便利な道具を持つ人間はいないんだ」
デヴリンが最後の肉を運搬具に入れながら教えてくれた。
「どのくらいの量が入ったんだ?
探索者ならまだしも、国となったらそれこそ軍の補給に役に立つレベルの量じゃないとあまり意味がない気がするが」
というか、国が入手したにしても、それこそ国内の便利なところにある迷宮を国に紐づけした探索者が攻略するのに活用すればヴァサール王国のような迷宮に基づいた経済と国家運営が可能になるだろうに。
「詳しいことは不明だな。
その国が攻め込まれて滅びた際に、王家の生き残りが国宝を詰め込んで逃げるのに使ったせいで失われたって話だし。
だからある意味、ちょっとした財宝と『まじっくばっぐ』を持っていれば大陸中央の南側にある地域では旧王家の血を継いでいるって宣言する証拠になるって話だぜ」
デヴリンが笑いながら言った。
「うわ、それじゃあ折角骨董品屋や迷宮の宝箱でマジックバッグを見つけても、迂闊に使えないじゃないか」
勿体ない。
旧王家の血なんて実際に担ぎだそうとする人間が居ないにしても、利用価値は高そうだから探索者が使っていたらそれこそ迷宮の中でグサッと後ろから刺されて奪われそうだ。
というか、世に一つか二つしかないような秘宝は実用使いするのは無理なのだろう。
「だな。
そう考えると、それこそ次にファルダミノ迷宮の最下層まで行く際に、マジックバッグを作れるようになる魔法陣を教えて欲しいと頼むといいかも?」
ダルディールが提案する。
「確かに!!!」
マジックバッグがあれば迷宮探索の効率がぐっとあがりそうだ。
神様も異世界から無関係な人間を召喚するよりも、もっと迷宮探索が捗るようにマジックバッグなりマジックバッグの作り方なりを宝箱で提供すればいいのにと思った隆一だった。
流石にこの世界の人間に対して直接神を批判するようなことは言わないが。
マジックバッグは永遠のロマンですよねぇ。




