1236.肉チェック(16)
「今日は17階のバターブルを倒しまくって肉を集めるぞ!」
王都迷宮前に現れたデヴリンとダルディールに隆一が宣言した。
「魔術師だけ7階の突進牛と17階のバターブルの肉の食い比べが出来るなんてずるいと僻みの声が騎士団で上がっていたぞ。
フリオスが上手いことリュウイチを誘導したに違いないって憤慨している奴まで出てきて、俺はもっと頑張れとまで言われちまった」
笑いながらデヴリンが応じる。
どうやら魔術師の魔力回復量への食事の影響に関するテストの話は既に騎士団の中で広まっているらしい。
「おやおや。
ダルガスの燻製肉の次にはバターブルの肉かい?
騎士団はちゃんとその肉代をリュウイチに払っているんだろうね?
何だったら探索者ギルドも喜んでテストに協力するよ?」
ふざけながらも半分本気でダルディールが茶々を入れる。
「肉を食わせて普段やる鍛錬の効果の確認って程度ならまだしも、敢えて怪我をさせてその回復を完全に行わせずに、どうなるかを試す実験だから、流石に金を寄越せとは言えないよ。
ある意味、危険手当を肉で払っているようなもんさ。
それに魔術師に関しては流石に探索者ギルドでもそうそう実験で魔力を連日空に出来るほど暇な人間はいないだろう?」
魔術師の魔力を空にさせて回復量を確認するとなると、魔術師本人だけでなくパーティ全体も実験期間中は探索に出られなくなるだろう。
そういう機会損失費用を払わないのだから、探索者もたかが肉を食べられるからと言うだけでは釣れないと思われる。
「今度は魔術師か。
確かにそうなるとちょっと厳しいかもだな」
残念そうにダルディールが応じる。
「まあ、今回は普通の肉のテストで、ダルガスの燻製肉ではないしな。肉を食べるだけだったら俺達だってついでに適当に倒して持って帰ればいいんだからあまり文句を言うべきじゃあないな。
これで効果があった場合は燻製肉が出てくるからやっかみが増えそうだが」
デヴリンが笑いながら付け足す。
「別に王都の騎士団で働く騎士が買えないほどダルガスの燻製肉って高い訳じゃあないだろう?」
確かに美味しいことは美味しいが、欲しければ自分で買えばいいのだ。
「ダルガスの燻製工房は穴兎でガッツリ稼いでいるから、他の肉での燻製は数が限られるんだ。
で、そういうのも高くして買えなくするんじゃなく、出来上がった時に突発的に店で売りに出すだけで予約は受け付けないせいで売り切れる前に偶然通りかかって買えるか否かだから、入手が難しいんだよ」
デヴリンがダルガスの燻製肉に対する熱意の背景を説明する。
「そうなんだ?
それは知らなかった」
隆一は穴兎の燻製肉に関して色々と実験するのに協力したし、上手くいった後にもっとガンガン作ってくれと工房の設備投資にかなり出資した。どうやら出資者としてダルガスが燻製肉の融通に関してかなり優先してくれていたらしい。
「どこか別の燻製工房にバターブルの肉の燻製を頼むべきか?」
あまり騎士団内の軋轢を増やすべきではないかも知れないし、ダルガスの好意(?)に甘えすぎるのも悪い。
「いやいやいや。
もしも燻製肉まで試す事になったのに、ダルガス工房じゃないとこの燻製を使うことになったらフリオスが血の涙を流して悔しがる。その変更の原因が俺だなんてばれたら後の報復がどうなるか分かったもんじゃないから、頼むから実験をすることになった場合はダルガスの燻製肉にしてくれ!!」
デヴリンが慌てて隆一の提案を否定した。
血の涙は流石にない気もするが、確かにそれなりに美食家らしいフリオスが、ちゃんと実験をすることになったのに楽しみにしているダルガスの燻製肉を食べられなかったら残念がりそうだ。
デヴリンを長期的に借り出してしまって色々と迷惑をかけている身としては、ここは少しでもフリオスの幸せに貢献するべきだろう。
「分かった、実際に17階と7階の肉とで食べた人間の魔力回復量が変わるようだったら、ダルガスにもう一度だけ協力を頼むことにするよ」
ついでに隆一用にもアリスナに燻製して貰って、自分でも何か違いを感じられるか試してもいいかも知れない。
とは言え、隆一はそれなりにしょっちゅう14階の穴兎の肉を食べているのであまり違いを感じられない気もしないでもないが。
バターブルの燻製肉も美味しそうだから、どちらにせよ食べよう。
『ダルガスの燻製肉……。
どうやったら回復量に違いが出る様に結果を操作できるかな……』




