1235.肉チェック(15)
10日のテスト期間の最終日に再度訪れた隆一は、熱心に鍛錬する連中を先日と同じ上の部屋から眺めながらアヴァールから報告を受けていた。
「中層の肉は新入りには多少効果があると思われ、ベテランはほぼなし、か」
アヴァールに提出された報告書をめくって目を通していきながら隆一が呟く。
「新入りこのまま続けたらある程度基礎能力値が上がった段階で違いが無くなるでしょうね。
基礎能力値の成長度に違いがあるかも調べたいところですが……スラムの住人相手ではあまり体力向上値に違いはなかったんですよね?」
アヴァールが溜息を吐きながら応じる。
美味しい燻製肉で釣る実験は色々と試しやすかったらしい。
それが終わってしまうのが残念なようだ。
「ああ、体力向上に関しては有意な違いがなかった。切り付けた怪我を治すために必要なポーションの量がレッドブルを食べた集団の方が少なかったのが唯一の違いだったな」
ある意味、新入りがスラムの住人、ベテランが一般市民と言い換えられるのだろう。
新入りで微細ながらも有意な違いが観測できたという事は、ベテランクラスまで鍛えなければ多少の違いはあるという事だ。ただ、ベテランクラスになると違いがないとなると、騎士団への中層もしくは下層の魔物肉から作った保存食の導入は費用対効果的に勧められないだろう。
「ちなみに騎士と普通の兵隊とだと基礎能力値はやはりそれなりに違うのか?」
基礎能力値は平の兵隊<新入りの騎士<ベテランの騎士という関係だと以前聞いた気がする。
「そうですね、普通の見回りとか歩兵として戦うような兵士で熱心に鍛錬するタイプは騎士にならないかと誘われて新入りになることが多いので、そういう感じなことが多いです」
アヴァールが頷く。
「そうなると、ある意味ベテランの騎士よりも、普通の兵隊や新入り相手にレッドブルの肉を食わせる方がベテランに食べさせるよりも費用対効果が高いかもってやつなんだな」
これを言ったら真面目に鍛錬して騎士になるのが馬鹿らしいなんて考える人間が出てきかねないので公にするつもりはないが。
「まあ、死ににくくなるために基礎能力値を上げるので、もしかしたら食事が良くなるかもっていうのを期待して鍛錬をさぼるようなアホは若死にしますから騎士としても要らないって感じですね~」
フリオスが口を挟む。
確かに。
アホな誘惑をする人間が出てこないように、変なことは口に出さないのが一番だろう。
「う~ん、そうなると食事はある程度以上鍛えた相手の回復速度にはあまり関係ないのか。
体を作るのにも大して違いは無いし。そうなると中層や下層のお高い肉を燻製にして保存食として遠征に持ち込む理由はないということだな」
幸い、層が違って見える味は極端に違いはないので、これを知った騎士たちが絶望することはないだろうが。
「とは言え、ベテラン騎士クラスになったらってだけですから、リュウイチ殿とか中堅程度の探索者だったら上層の魔物の肉を食べるよりも中層や下層の肉を食べる方が、もしもの時の回復量があがると考えられますよ?」
アヴァールが指摘する。
「そういえばそうだった」
隆一の基礎能力値はまだまだそこまで上がっていない。
そう考えると、もっと下層の魔物の肉を持って帰ってガンガン食べるべきなのかも?
まあ、隆一の場合は狙われて怪我をする可能性は低そうだが。
「そういえば魔力の回復量とか、基礎能力値的な魔力量の増加には何か影響があるか、調べることは可能かな?」
フリオスを振り返って隆一が尋ねる。
何分スラムの人間では魔術師がほぼいないのだ。
いるとしても裏社会のヤバい連中に繋がって表に顔を出せないような人間だろうから、隆一の実験に参加してくれる可能性はほぼゼロだろう。
「魔力は使い切ってしまうともしもの時に困りますからねぇ。
少数でちょっとずつ試していきます?」
フリオスが困ったような顔をしながら応じる。
とは言え、微妙に口元が微笑みかけているので、実験をするとなったら被験者に収まるつもりなのは確実そうだ。
「そうだな。
まずは7階の突進牛と、17階のバターブルの肉を普通に冷凍して試してみるか」
普通の肉で効果があるなら、その後に燻製肉を試せばいい。
燻製肉じゃない?!!




