1234.肉チェック(14)
「邪魔する」
テスト開始から4日程経ち、隆一は途中経過を確認しようと騎士団を訪れていた。
「いえいえ、大量に燻製肉を提供してくれたスポンサーですからね。
何かが想定と違っていた場合に早期に進路修正するためにも、来ていただけて助かりますよ」
回復師側の取りまとめ役をやっているアヴァールがにこやかに隆一を出迎えながら言った。
「ちなみに既に何か結果は出ているのか?」
アヴァールに案内されて階段を登りながら隆一が尋ねる。
「基礎能力値の低いぺえぺえな新入りは、レッドブルの肉を食べている方が治りが多少いいかも? という程度ですね。でもまだ誤差の範囲内と言えなくもない程度なので有意な違いとは言い切れません」
3階まで上がり、廊下を進んで右側の部屋に入って窓際に歩み寄りながらアヴァールが言った。
「新入りは、という言い方をするとなると、新入り以外も実験に参加しているのか?」
窓の外を覗きながら隆一が尋ねる。
どうやらここは訓練所に面する建物で、3階からだと鍛錬の様子がよく見える場所として選ばれたらしい。
「ダルガス工房の燻製肉を10日間食べられるという情報が漏れてしまったせいで、新入りだけでなく、ベテランも被験者に選ぶべきだと強硬に主張する連中が多数現れまして。
まあ、確かに実際に戦場では新入りだけではそれこそ敗走してしまいますからね。
半数分はベテランに被験者としての参加を認めることになりました」
アヴァールが苦笑しながら言った。
どうやらダルガスの燻製肉目当てに被験者に立候補する人間が多すぎて、新入りだけで行うという最初の計画が変更を余儀なくされたらしい。
「新入りなら確実にボロボロになるような訓練をするから被験者に向いているという話だったが、ベテランだとどうするんだ?」
ベテランがボロボロになるような鍛錬なんてちょっと難しい気もするが。
「なので、あちらです」
アヴァールが訓練所の右手の方を示しながら言った。
そちらにベテランらしきしっかりとした体格の騎士たちが複数鍛錬をしている。
しているのだが……。
「なんかあっちの連中は殺気立っていないか?」
新入り達の鍛錬だって真面目にやっているし、他の騎士たちの鍛錬も真剣にやっているのはそれなりに感じられるのだが、右側の連中は殺気が漏れ出ているような感じがする。
魔物の殺気を感じるのも苦手な隆一だが、訓練所の右側で鍛錬している連中はそれこそ本気で殺しに来ていると言われても信じそうなぐらい殺気が駄々洩れだった。
なるほど、あれが殺気かと思わず納得してしまった隆一だった。
「通常の鍛錬でしたら軽い怪我はまだしも、回復薬では足りず回復師を必要とするような重度な怪我はお互いに負わせないし負わないぐらいにコントロールして手を抜くというか寸止めするというか気を使って戦うのですが、今回は怪我をするのもある意味目的の一つですからね。
流石に手足を切り飛ばすと面倒なのでそこまではうっかりやったりしないようにしっかりと防具を身に付けてやっていますが、大怪我前提で鍛錬するのも偶には悪くはないと好評ですよ」
なるほど。
怪我をするのが目的だから、普段なら抑えている殺気も駄々洩れ状態なのか。
「で、ちなみに彼らの場合はレッドブルと突進牛とであまり違いが出ないのか?」
新入りには多少の違いがあったという話なので、ベテランにはあまり違いがなかったと読める。
「どうも、基礎能力値が高いと多少の食糧の違い程度は数日では目に見える差異が出ない様なんですよ。
ある意味、もっと粗食を食べる集団も作って試してみるのも良いと思うのですが、残念ながら粗食の被験者になりたいと立候補する人間がおらず……」
溜め息を吐きながらアヴァールが言った。
「ふむ。
まあ、10日間続けたらもう少し違いが出るかもってところかな?
本当の戦争だったら数か月続くこともあるのだろうから、長期になれば差異が出るという結果だったらそれはそれで有意義な発見ではあるしな」
ベテラン用に更にもう10日結果を伸ばすべきか否か、悩ましいところだが。
「上手くいけばもっとダルガス工房の燻製肉にありつけるぞ!!』




