1233.肉チェック(13)
ダルガスから届いた干し肉合計40キロを持って、隆一は騎士団に来た。
「こちらが7階の突進牛の燻製肉、こっちは12階のレッドブルだ。
先日話したように、良い感じに怪我をするぐらいの腕前の新兵を10人ずつ毎日突進牛とレッドブルを食べるグループに分けて、回復術の掛かりとか完治させなかった傷の予後なんかの違いがあるかをテストしてもらえるか?」
肉を渡しながらフリオスに頼む。
「これってダルガス工房の燻製肉ですか?!
新兵に食べさせるなんてもったいない!!!」
フリオスが肉に頬ずりをしそうな顔で言った。
「……実験が終わった後にダルガスの所の肉を差し入れするから、頼むからこれを差し替えたりしないでくれ。
他の工房で作った肉だと何か微細な違いが出るかも知れないから、ダルガスの所であえて同じ作り方をした燻製肉を集めて来たんだ」
レッドブルと突進牛の燻製肉で何らかの違いが出るならば、次は軍に保存食として納品されている突進牛の肉とダルガスの突進牛の燻製に違いがあるかの確認をする可能性はあるが、現時点でダルガス製突進牛の燻製肉を遠征用のと差し替えられては困る。
「いえ、差し入れを強請ったりするのは禁じられていますから。
第一、これは軍にとっても大きな意味のある実験かも知れない実験なのです。それの素材を提供していただいているのに勝手に目的外の利用をするなんて、許されませんから」
フリオスがピシっと背筋を伸ばして通常通りの理性的な魔術師の顔に戻った。
どうやら彼は食道楽らしい。
デヴリンを借りてしまっていることも鑑みて、今度ダルガスの燻製と一緒にタルニーナの胡桃タルト辺りでも差し入れるべきかもしれない。あれだったらそれ程甘くないから誰でも楽しめるだろう。
「そういえば、軍の回復師にも何か通常の業務で気付いた点とかがあるか、聞いてみたいのだが」
実際にその新兵を訓練でズタボロにしたうえで治療する場面にも立ち会いたい気持ちもあるのだが、スパッと切って治療するのとは違い、普通の訓練をやっている間に出てくる怪我人の治療となると拘束時間がかなり長くなるので流石に全部付き合うのは躊躇われる。
1日だけ顔を出してどんな様子なのかを見てみてもいいかも知れない。
「騎士団の回復師と話が出来るように手配はしてありますので、良かったらこちらへどうぞ」
隆一のリクエストに頷きながらフリオスが案内に立ち上がった。
フリオスに案内されてきたのは救護室らしき場所だった。
そこで何人かの回復師が働いていたが、そのうちの一人がフリオスに声を掛けられ、隆一を奥の部屋へ招いた。
「何やら面白い実験を始めるらしいですね」
アヴァールと紹介された回復師が挨拶しながら言った。
「ああ。
魔物は魔力が完全に尽きると死ぬし、完全でなくてもほぼ枯渇すると傷の治りが目に見えて遅くなるんだ。
そして下層の魔物の方が上層のよりも傷の治りが早いし、治る回数も多い。
だからスラムの人間に中層と上層の肉を10日ほど食べさせて、どんな違いが出るかを実験してみたら身体能力の向上は殆ど変わりがなかったんだが、傷にポーションを掛けた時の回復量に有意な違いが出てね。
スラムの人間みたいに体がボロボロだった状態から肉を食べたのと違い、既に体が出来上がった状態で食事を変えたらどうなるか、実験してみたいと思ったんだ。
体質とか体格とか食生活によって回復術の掛かりが良いとか、完治させなかった傷の回復が早いとか遅いとかってあるのか?」
実験を始めた経緯を説明しながら隆一が尋ねる。
「騎士たちの食生活は個人的に付き合いがあるのでない限り知りませんから何とも言えませんね。
体調を崩して食事を食べられなかった人間に回復術が効きにくいというのはありますが」
アヴァールがちょっと考えながら応じた。
「まあ、長期的には我々の体は食べたものにそれなりに影響されるとは思うんだが、10日程度で違いが出るかが興味がある点だから、これから何か違いがでるか、是非とも注意を払っておいて貰いたい」
「勿論です。
遠征用の保存食の違いで治療効果に違いが出るならば、我々としても是非とも知っておきたい詳細ですからね」
アヴァールが熱心に頷きながら言った。
「よろしく頼む」
流石に食生活を変えた初日から何か影響が表れるとは思わないが、5日ぐらいしたら見に来てみよう。
モルモットは既に確保済みw




