1232.肉チェック(12)
「そういえば、こないだのレッドブルの肉で燻製を作ったら何か違いはあったか?」
フリオスと保存食の効果確認の方法について話し合っていたら、現時点で軍が使っている燻製肉が7階の突進豚と牛であると報告が来たので、隆一は暇を告げて家に帰る途中で燻製職人のダルガスの所に寄った。
「熱燻で短時間に作るやつに関しては特に目立った違いはなかったな。
まだ保存期間に違いが出るかの確認が出来るほど日数が経っていないから、もう数日待ってくれ。
冷燻のはまだ燻している最中だ」
ダルガスが応じた。
ガサゴソと後ろの棚を探し出し、皿を二つ取り出してきて隆一に差し出した。
「こちらが魔力が切れたと言っていたレッドブルの肉。こっちが普通のだな。
一口ずつ食べてみるか?」
ナイフを手に取りながらダルガスが尋ねる。
本人は既に食べる気らしい。
「そうだな。ついでに飲み物もくれ」
ダルガスの燻製肉は美味しいのだ。
折角だから、ちょっと食べよう。
「軍が遠征用に持っていくような保存食に使うのは冷燻した燻製なのか?
熱燻より冷燻の方が長持ちするとは聞いたが、作るのに時間が掛るのだったら真空パックなどで保存期間をある程度は延ばせるのだからその方がお手軽な気もするが」
作るのに時間が掛るという事は、その分値段も上がるのだ。
一度買えば使い続けられる真空パック装置でその保存性を伸ばせるなら、そちらの方が良い気がする。
「うっかり何かの理由で真空パックが破けていた場合に肉が食べられないとか、悪くなっていて食中毒が蔓延するなんてことになったら困るからな。
探索者用や一般家庭用はまだしも軍用のは冷燻だろう。戦時中みたいな非常事態になるとそんなことを言っていられなくなるかもだが」
ダルガスが応じた。
なるほど。
戦場に着いたら破けていてダメになっていたら困るか。
ある意味、ダメになっている方がこっそり毒を仕込まれた場合に分かりやすくていいかも知れないという気がしないでもないが、基本的に軍の食糧には不埒なことをたくらむ輩は近づけないようになっているのだろう。
多分。
「ちなみに突進牛か突進豚とレッドブルの燻製肉ってどのくらい在庫にある?
どれもあるなら突進牛か突進豚を20キロ、レッドブルを20キロほど買いとりたいんだが」
軍の保存食として使われている燻製肉をそのままコントロール集団に使ってもいいのだが、ダルガスの燻製肉が軍に納入している業者よりも何かの点で優れている可能性もあるので(少なくともダルガスの燻製の味は確実に王都でも有数なので、質より量になりがちな軍の保存食とは完全に別物だろう)、出来れば全部ダルガスの燻製肉で試してみたい。
「随分と沢山買うんだな。
この前のレッドブルの肉もそれに使ってしまっていいのか?」
ダルガスが尋ねる。
「あ~、あれに関してはちょっと別の意味で興味があるから、残しておいてくれ」
魔力を使い切らせた魔物の肉が燻製にした際に保存性や保存した後の味などに何か違いが出るのかも、確認しておきたい。
実用的な応用はほぼない知識にしても、散々色々やった一連の実験の結果の一部なのだ。
どうせならば答えもしっかり出しておきたい。
「ふむ。
となるともう数日待ってくれ。
一昨日仕込んだのが出来上がったらそっちに回せるだけの量になる」
ダルガスが言った。
「ありがとう」
どうせ新兵の訓練からフリオスが犠牲者を選び訓練担当の士官や軍の回復師と話を付けるのに数日かかるのだ。暫く待つのは構わないだろう。
というか、軍の回復師とも一度話をして、回復速度に関する変動要因的な何かに今までの経験の中で気付いたことがなかったか、聞いてみるのもいいかも知れない。
200g x 十人 x 10日で二十キロ




