1231.肉チェック(11)
「ちなみに今の軍が使っている遠征用の保存食って何なんだ?」
以前は超絶に不味い干し肉と雑穀を混ぜて固めたような物とかガチガチに硬い干し肉だったと聞いたが、隆一が真空パック用の魔道具を開発し、フリーズドライの調理法(?)も提供したのでそれらを試して改善するとフリオスが以前言っていた筈だが。
「フリーズドライの食糧は大量に肉を入れるとちょっと食感が損なわれるので、あちらは主食用に、肉は真空パックで味と食感を犠牲せずに保管期間を延ばした燻製肉がメインですね。
値段が上がり、保管期間も多少短くなりましたが大幅に味が改善されたので、古くなりかけた保存食をそのまま騎士団の食事に活用できる点も考慮し、騎士や兵士のやる気や体力の向上のために必要な経費だと皆で訴えて押し切りました」
にっこり笑いながらフリオスが教えてくれた。
まあ、超弩級に不味い食事では食べる気も失せるだろうから、戦闘に出ている人間に食べさせるのには適切とは言えないだろう。
「そういえば、それなりに美味いのだったら製造工房に『騎士団でも使っている吟味し尽くされた遠征食』ってことで一般へ売り出しても良い代わりに沢山売れて原価が下がったらそれを購入料金に反映させてくれって交渉してみたらどうだ?」
日本でも『自衛隊の戦闘食』と銘打ったレトルトが防災食コーナーにあったのを見た気がする。
確か海軍カレー(?)はそれなりに美味しいという評判だったし、他のもそこそこ美味しい上に栄養バランスも中々優れものだと店員が力説していた。
「ふむ。
軍に実際にいた人間だったら絶対に遠征食だと聞いたら手を出さないとは思いますが、元同僚から美味しくなったと聞いたら試す気になるかも?
商人相手なら売り文句として使えるかもですから、上から経費削減策として承認を得られたら工房の方に提案してみる価値はあるかもですね」
フリオスがちょっと考えてから頷いた。
「どちらにせよ、その保存食用の肉の素材が何か、分かったら教えてくれ。
それより下の層の肉で燻製を作って貰って、持ってくる。
それで似たようなレベルの怪我をした騎士相手に、完全に傷を治さない省エネモードな回復をした後の回復速度に違いがあるか、テスト出来たらありがたいんだが」
一番簡単なのは適当な傷を意図的に付けてそれを調べることだが、流石に国の為に戦う人間に傷をつけて実験しようなんて言うのは提案し辛い。
「大丈夫、新兵用の初期訓練ではみなズタボロになりますから。
重症化しないように見張りつつもそれなりに怪我を経験させるようにしているので、似たような程度の怪我もそれなりにサンプルが集まりますよ」
どうという事はないという感じにあっさりとフリオスが応じた。
流石軍。
中々やることはハードらしい。
怪我を確実に治せるし、怪我は基礎能力値不足が一因なのだと自覚させるためにも、ガンガン怪我を負うような訓練をするようだ。
地球の先進国の軍隊よりもよっぽどハードに訓練していそうだ。
「そういえば、軍だと一食に出される肉の量は何グラムぐらいなんだ?」
テスト用にそれなりに集めておく必要があるが、戦闘食だからがっつり食べるのか、それとも遠征という想定だからギリギリな路線になってしまうのか、確認しておく方が良いだろう。
「朝食はまだしも、昼は150g、夜は200gと言ったところでしょうかね?
美味しい高級な肉だったら少し量を減らしても大丈夫だと思いますが」
フリオスが応じる。
「……ちなみに、スラムの栄養失調気味で五体満足な人間を3グループに分けて7階の突進豚と突進牛、あと12階のレッドブルを2週間食べさせ続けたのだが、身体能力の向上に殆ど差は無かった。
だから高級な迷宮下層の肉だったら少なくても大丈夫という事はないと思うぞ。
ただ、レッドブルの肉を食べた集団は突進牛と豚を食べた集団よりも傷の治りに必要だった回復薬の量が少なかった。それで追加で実験をやろうとしているのだが」
そう考えると、燻製肉にした場合に回復スピードに違いが無かったら肉は安いのを多く買うのが一番という結果になってしまい、治験に協力した兵士や騎士からちょっと恨まれるかもしれない。
燻製肉では下層だろうと違いがないという結果になった場合は……安い燻製肉の美味しい調理法でも誰かに研究させるよう、資金提供でもするか。
高級な肉が体に良いとは限らないですからねぇ




