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実は召喚したくなかったって言われても困る  作者: 極楽とんぼ


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1229.肉チェック(9)

 流石に被験者を列で並ばせて仲間が切り付けられるのを延々と見せ続けるのは良くないだろうと、協力してくれた人たちはグループごとに来る日を指定し、今日集まった10人は隣の大部屋で軽いつまみと水を提供して待たせている。

 その仲間から一人連れ出された最初の被験者の腕を隆一がつかむ。

「ちょっと失礼」


 既に前回の時にもやっているので、極端に緊張はしていないが、それでもやはりナイフを持った人間が傍にいるのは嫌なのか、手の下の腕の筋肉が微妙に緊張している。

 筋肉の付き具合で右利きだと判断してそっと神経を麻痺させながら、スパっと10センチほど左の腕を切り付ける。

「エフゲルト」

 傍で控えていた助手に声を掛けたら、エフゲルトがスポイトを回復薬ポーションの瓶から吸出し、少しずつ傷口に掛けていく。


 最初はシリンジでやっていたのだが、うっかり指に力が入ると一気に出過ぎてしまう。その点小さなスポイトなら少ない定量を掛けられるので、多少は余分に時間が掛るが確実なのだ。

 最初の1ccで一部の出血が止まったが、まだ下の方が出血し続けていたので更にもう一回スポイトから回復薬ポーションを垂らし、奇麗に浄化した指で回復薬ポーションを傷口の上に広げる。

「もう一回だな」

 微量の血がまだにじみ出ているのを確認して、隆一がエフゲルトに指示する。


 3㏄であっさり血が止まった。

 やはりこう見ると、回復薬ポーションというのは本当に魔法マジックだ。

 出血を止められるだけで、どれほど死亡を防げることか。

 まあ、実際に出血死するような大きな動脈などを切ってしまった場合はランクの低い普通の回復薬ポーションでは足りないこともあるが。

 出血の勢いが大きすぎて、回復薬ポーションの回復スピードがおいつかず、血管の傷を治せる前に血に洗い(?)流されてしまうのだ。

 血管の元を圧迫して一時的にでも出血を止められればその間に回復薬ポーションを掛けて血管の損傷を癒せる可能性もあるのだが、きちんと圧迫止血できるだけの技術がある人間が傍にいるかどうかは微妙なところだ。


 回復薬ポーションを掛ければ怪我が治るというその便利さと万能性に慣れ過ぎた探索者は、怪我への初歩的な対処方法を身に付けていない人間が多い。

 通常ならば高位ハイ回復薬ポーションでなければ救えない大怪我を、普通の回復薬ポーションでなんとか一時的にでも延命できる技術なのだから、緊急時の救急処理方法は探索者ギルドは探索者に教え込むべきだろ思うのだが、医療処置というのはデリケートでそれなりな知識を必要とする為、探索者ギルドが無料で提供できるレベルを超えているそうだ。


 なんとか予算をやりくりしても、実際にその技術を身に付けられる人間がどれだけいるかは不明だし。

 それはさておき。

 出血が止まったのを確認して、表を手元に引き寄せて3㏄と被験者の名前の横に書き込む。

「よし、続けてくれ」

 エフゲルトが更に傷へ回復薬ポーションを掛けていく。

 ざっくり切れていた切り口が徐々にふさがっていき、8㏄程かけた時点でうっすらとピンクの線が残るだけになった。腕に掛けた麻痺の術も解除する。

「よし、腕に力を込めてみてくれ」

 被験者が腕に力を込めて力こぶを作り、手を振り回すが傷口が開くことはなかった。


「何か違和感はあるか?」

 比較的浅く切ったので変な後遺症はない筈だが、後からいちゃもんを付けられても困るからしっかりと確認を取る。


「いや、大丈夫だ。

 やっぱ回復薬ポーションって凄いもんだな。痛くもなかったぜ!」

 被験者がしげしげと腕を見ながら応じる。


「いやまあ、切り付けた時に痛くなかったのは俺が痛み止めを掛けていたからだが、取り敢えず違和感がないならそれでいい。

 では、ご協力を感謝する」

 引き出しから被験協力に対する報酬を取り出して渡してから、部屋を出て行くように身振りで出口を指す。


「止血に3㏄、傷の完治に追加で8㏄。前回に比べて3割減というところだな」

 前回のテストの結果を見比べながら隆一がコメントした。


「栄養が足りないと出血も止まらないんですね」

 エフゲルトが驚いたように小さく呟く。


「子供の頃と今と比べて、怪我をした時の出血量の違いとかに気付かなかったか?」

 エフゲルトだって隆一の所に助手に来る前は栄養失調一歩手前なガリガリ具合だったが。


 親が食事を出さなかったというよりは、貧しい家族の状況に遠慮して必要最低限しか食べていなかった結果の状態だったとはいえ、あれでも体の自然治癒力は下がっていた可能性が高い。

 しかもエフゲルトはほぼ全く迷宮に通っていなかったので基礎能力値も低かった。


「外に出ることはあまりなかったですし、台所の手伝いをする時は怪我をするなんて無駄なことをしないよう、細心の注意を払っていましたからね。

 出血は殆どしていないので違いにも気づきませんでした」

 エフゲルトが軽く笑いながら答えた。


 なるほど。

 家に居たら出血する機会など、殆どないか。


「よし!

 次の人間を送り込んでくれ」

 扉の所に立っている神官に頼む。


 さて。

 栄養価が増えたことによる回復スピードの加速は確認できた。

 栄養の元となる肉の違いが回復スピードに違いがでるか、興味深いところだ。


さあ、次の実験だ!

『ひぃぃ〜〜!』

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