1227.肉チェック(7)
「結局、突進豚と突進牛の回復速度に大した違いはないようだな。
アーマーボアとバターブルの回復速度が違うのは、アーマーボアが魔力を防御のために使っているせいで体の傷の修復に回す魔力が少ないせいなんだろう。
取り敢えず。
突進豚と突進牛とレッドブルの3グループに分けて、2週間昼と夜に肉を食べさせたスラムの住民の体力向上の度合いを比べてみよう」
7階の魔物虐待を出来るだけ人目のないところで終わらし、栗と胡桃を集め終わった隆一は山盛りになった飛行型運搬具の前でデヴリンとダルディールに宣言した。
「何か助け手伝えることはあるか?」
ダルディールが尋ねる。
「いや、肉の供給に関してはスフィーナに手配しておいて貰ったし、スラムの人員はザファードとエフゲルトが特に痩せている人間を集めて体力テストを既に行って、グループ分けもしてある。
あとは肉を食べさせて、2週間後に体力テストをもう一度やって確認する程度だ。
実験を始める前と終わった後に一度10センチほど浅く切り付けて血が止まるまでどのくらい時間が掛るか、ポーションを掛けてから完治にどの程度時間が掛るかをチェックして治癒に要する時間に差があるかを確認する契約になっているが、これは俺がやった方がいいだろうし」
地球だったら体に傷をつけるなんていう治験は大問題な気がするが、こちらではちゃんとポーションで治すと神殿が保証したら、誰一人として文句を言う人間が居なかった。
地球と違ってポーションなり回復師のスキルなりで跡が残らないように即座に治せるので、ハードルは低いようだ。
考えてみたら、数年前から出回った湿潤タイプのバンドエイドはその効果を調べるために誰かの傷に使わなければならなかっただろうが、あれって被験者にお金を払って擦り傷や切り傷を付けさせてもらって実験したのだろうか?
治験は必要とは言え、現代の先進国でそんな人体実験モドキなことが出来るのかと、改めて考えてみたらちょっとびっくりだ。
ちなみに魔物は一番肉が大きい太ももを切り付けて実験したが、人間の場合は女性の太ももを切り付けるのは色々と支障があるし、男女差をつけるのもあれなので全員腕を切らせてもらうことになっている。
「そういえば、燻製のチェックはどうするんだ?」
デヴリンがちょっと楽し気に尋ねてきた。
被験者に立候補して沢山燻製をゲットするつもりなのだろうか?
「まずは新鮮な突進牛と突進豚とレッドブルの差異を確認してからだな。
新鮮な7階と12階の魔物の肉で有意な差がなかった場合、燻製にしたら差が出るとは考えにくいからテストする意味もないだろう」
栄養失調気味なスラムの人間が2週間連続でも毎日昼晩に肉を食べられたらどう変わるのか興味があるところだが、騎士団の人間だったら栄養失調の心配はない。
だから純粋に魔物の肉の魔力含有量で治癒のスピードに差があるかを確認してから、あとは考えねば。
「ちなみに俺が突進牛と突進豚を虐待しているの、どの位目撃されていた?」
階段へ向かいながら隆一が尋ねる。丁度5階と10階の中間点なので上に行っても下に行ってもいいのだが、今日はついでに6階で中級薬草を採取してあとで実験で使うポーションを増産するつもりだ。
「そりゃあ、それなりに見られたが、隆一だからな。
ちょっと不思議な研究者ってことであまり誰も気にしてなかったぜ。
何と言ったって12階のレッドブルもだが、13階で延々とコボルトを虐殺しまくった上に歯形を取るなんて不思議なことをやっていたんだ。
変人寄りな研究者だという評判は既に揺るがないものになってるよ」
デヴリンが笑いながら隆一に宣告する。
「マジか~。
揺るがない変人の座なんていらないんだけど」
思わずため息を吐いてしまう。
まあ、やっていることはそれなりに猟奇的かもとは思っていたが、どうやら探索者の皆様からは理解を得られなかったらしい。
残念だ。
この後スラムの人を切り付けるさいにニヤニヤ笑ったり、ワクワクしていたら更に評判が悪化しまっせ〜。




