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実は召喚したくなかったって言われても困る  作者: 極楽とんぼ


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1226.肉チェック(6)

 ドガ!!

 隆一の方へ突撃してきた突進豚がクロスボウもどきから発射されたボーラ型足止め用魔道具に足を取られ、横倒しになった。

 やはりこうやって襲われてみると、7階の突進豚は17階のアーマーボアに比べると小柄だし、突進のスピードも遅い。


 下手に攻撃を加えたら死んでしまうかもという事で足止め用魔道具だけで対処したが、あっさりそこそこ希望通りな形に突進豚を対処できた。

「大分と腕が上がってきたなぁ」

 思わず感慨深く隆一が呟く。

 超一流なお守り役に守られている甘々な探索しかしていないので、下層まで辿り着こうが一人前の探索者とは言えないだろうと思っていたが、魔道具を使ってとは言え、自分ひとりでお守り役なしで普通に倒せた。この程度だったらお守り役が居なくても自分の身を守れるだろう。

 殺したんじゃなくて物理的に転倒させただけだが、この後殺したければ直ぐに止めはさせる。


 そう思うと、ベテランとは言わなくても一人前と言っても良さげ?

 とは言え、7階の突進豚であろうと蹴られたら怪我をする可能性が高いので設置型足止め用魔道具で完全に動けない様にして、太腿を切り付ける。

「ふむ。

 やはり上の階になればなるほど治癒速度は遅いな。

 それでも人間よりは圧倒的に早いが」

 ゆっくりと見ている間に血が滲むのが止まり、徐々に傷が繋がって消えていく。


「何故魔物はこうも早く傷が治るんだろうな?

 下層の魔物はまだしも、7階程度だったら魔力の総量だって今の俺と大して差がないか少ないぐらいなのに」

 錬金術師として魔力を使う職業であり、こちらに来てから迷宮に通って魔物を虐殺してきた隆一の基礎能力値はかなり上がってきて、今では魔力量だってかなり増えている。

 魔力を防御力アップに使っている様な魔物と比べるならまだしも、単に突進するだけの野生の猪がちょっとパワーアップした程度の突進豚の魔力保有量はそれほど多くない。


「体の構造が違うんだろ。

 人間は魔力枯渇で死なない代わりに、普通の魔力を治癒に活用できない。

 うっかり魔力を使いすぎたらその場で死んじまうよりは回復薬ポーション回復師ヒーラーに頼って治さなきゃいけない方が安心だ」

 デヴリンが肩を竦めながら言った。


 確かにラノベなんかで魔力枯渇で死ぬと言う設定も時折ある。枯渇させて魔力を増やすと言う設定の方が多かった気がするが。あれって一歩間違うと自殺って事になりかねないが……本当に死ぬ場合だったら子供にそう言い聞かせるだろうし、場合によっては枯渇できないような魔道具を作って嵌めておくだろう。流石に『まだ早いのよ』とだけ言って魔力の使い方を教えず、早熟な才能のある子が自死しちゃうのを座視するとは考えにくい。

「魔術師は戦場や迷宮で魔力枯渇したら生き残る可能性が格段に低くなるが、それでも日頃の鍛錬次第だからな。

 問答無用で死んじまう魔物っていうのは確かにそれなりに不便だよな」

 肉体的に戦う鍛錬に関しては『才能なし』とほぼ全ての教師役の人間にやんわりと言われ続けて諦めてしまった隆一としては、周囲の護衛に頼るしかないのだが。


 そんな雑談をしながら突進豚を何度も切り付けていたら、やがて傷が目に見える速度で塞がらなくなった。

「やはり速度も遅いが回数も少ないな。

 これだったら普通の肉……は入手が難しそうだから、一角ウサギあたりと比較すべきか?」

 普通の鶏肉あたりと比較評価出来たらいいのだが、狐や狼どころか魔物が徘徊する世界なので養鶏所も運営は厳しいのだ。

 ドブネズミを捕まえて食べるならば比較的安上がりだろうが、流石にあれはスラムの住民でも嫌がりそうだ。


「次が突進牛だな」

 適当に解体して、ほぼクズ石と言っていいぐらいに濁っている魔石も一応参考のために取った隆一が立ち上がって周囲を見回す。

 栗や胡桃の木から遠く、階段へのルートからも外れた場所を選んだので幸い魔物虐待の現場を目撃した探索者は居なかったようだ。

 まあ、今視野に居ないだけで通りがかりに目撃された可能性は十分あるが。

 それに、ここ程人目につかない場所はもうあまりないので、あと数体ずつ倒していたら虐待現場を見られてしまう可能性は高い。


「ちなみに、探索者で異常に魔物を残虐に殺したがるような奴っているのか?」

 ふと気になってダルディールに聞いてみた。

 地球では野良猫やペットの犬猫が虐待されていたら連続殺人鬼の卵がいる予兆だと言われていたが、こちらの世界では迷宮の中で幾らでも魔物を殺せるのだ。

 野良猫やペットを捕まえて殺すよりも良さげな気がするが、どうなのだろう?


「魔物を憎んで手当たり次第に殺したがるタイプは大繁殖スタンピードで家族や恋人を亡くした奴に時折いるが、特に理由もなく苦しめて殺すのを楽しむタイプは……居なくはないが、比較的早い段階で仲間が離れるので長生きしない事が多いかな?」

 ダルディールが答えた。


 殺す対象がふんだんにいる異世界でも、残虐に他者の苦しみを喜ぶような人間がいるのか。

 地球とは違う神様が作った筈の人間でもそう言うネジが飛んでしまった様な存在が生まれてしまうとは、不思議なものだ。


 それはさておき。

「お、来た」

 ヤバい探索者の事は考えない事にして、こっちも実験を続けよう。

 と言うか、隆一がヤバい人間だと避けられそうだが、どうするか……。





『あいつ、ヤバい……』

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「ちなみに、探索者で異常に魔物を残虐に殺したがるような奴っているのか?」 「お前だよ!」
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