1224.肉チェック(4)
「これを燻製にしてくれないか?
倒す前に魔力を使い切らせたレッドブルの肉なんだが、普通のレッドブルの肉と何か違う面に気付いたら、教えて欲しい」
追加で3体ほどレッドブルを虐待した末に倒した隆一は、美味しいという部位を適当に解体してデヴリンとダルディールとで三等分し、自分の分の半分を燻製職人のダルガスの所に持ってきた。
「ふむ?
魔力を使い切らせたんですか。ちゃんと食事を摂れなかった魔物や年老いた個体というのは肉が劣化しますが、新鮮な迷宮産の魔物でそれほど品質に違いが出ることはあまりないのですけどね?」
ダルガスがちょっと首を傾げながら応じた。
「レッドブル程度だったらそれ程長く激戦して魔力を使い切らせてしまうなんてこと自体があまりないだろう?
今回はちょっとした実験の結果として魔力がほぼ枯渇した状態の個体の肉なんだ。魔力が枯渇していると味が悪くなるとか、歯触りが変わるとか、保存できる期間が短くなるとかといった影響があるのか知りたいので、何か気付くことがあったら教えて欲しい」
保存期間に関しては最後に普通に倒したレッドブルの肉と一緒に冷蔵庫に入れておいて肉の状態を何日間か観察してチェックしようと思っているが、味に関しては一応半分は今晩か明日の食事としてアリスナに出してもらって皆で確認する予定だ。とは言え、やはり元料理人で現燻製職人であるダルガスの方が素人が食べた感想を述べあうよりも確実だろう。
「まあ、何か通常の肉と違う反応がないか、気を配っておきますが……これからも魔力を枯渇させるような倒し方をする予定なのですか?」
ダルガスが尋ねる。
「いや、そんな予定は特には無いが、下層と上層の肉の違いが含有する魔力の量に由来しているのか、興味があってね。
魔力の量が多いと美味しく感じるのだとしたら、倒すときとか倒した後に魔力が抜けないように工夫すると味が良くなるかもだろう?」
魔物の肉は種類にも依存するが、同じ系統(牛系、豚系、ミノタウロス系など)の中だったら下層になればなるほど美味しくなると言われている。
これが魔力の含有量によるものなのか、組織構造に由来するものなのか、興味がある。
というか、下層になればなるほど値段が高いのは、下層になればなるほどその希少性や倒す難しさから値段が上がることで、『高いのだから美味しい筈』という思い込みの可能性もあると隆一は思っている。
何といっても日本で美味しい和牛の代表格だった神戸牛なんかはビールを飲ませたりマッサージをしたりと甘やかして柔らかくすることで美味しくしていると聞いた。
そう考えると、よりパワフルで力が強い下層の魔物の方が筋張って美味しくない方が当然な気がする。
そんな考えに反して下層の方が気のせいでなく本当に美味しいのだとしたら、原因は魔力含有量のせいな可能性が高そうだ。
「ふむ。
確かにそうですな。
ちなみに比較評価に使える普通のレッドブルの肉もありませんか?
リュウイチ殿の肉は解体と冷却状態がとてもいいので、普通に入荷するレッドブルよりも肉が良いせいで味の比較が難しいんですよ」
ダルガスがにっこりと要求してきた。
「あ~。
じゃあ、これを使ってくれ」
家に持って帰る予定だった普通に殺したレッドブルの肉の一部をダルガスに渡す。
これって燻製にした肉の全部を渡してもらえるのだろうか?
一部奪われそうな気がしてきたが、まあ研究用なので結果さえ入手できれば多少はダルガスの研究用に取られてもしょうがないとしよう。
そんなことを考えながら家に帰った隆一はアリスナにレッドブルの肉を観察用の一部除いてすべて渡した。
「こちらとこちらでちょっと違う状態で倒したレッドブルの肉なんだ。
普段と同じような調理方法で出して欲しい。あと、味見とかで味や触感などに違いがあったら、教えてくれ」
ちょっと微妙に『またですか?』と言いたげな顔をしていたアリスナだったが、何も言わずに肉を受け取って印をつけていた。
「ちなみに今晩の夕食は?」
「ステーキにしましょうか。
あれが一番肉の味が素直に出ますから」
どうやらメニューを変えさせてしまったらしい。
まあ、煮込みならじっくり時間をかけて調理すると更に美味しさが増えるはずだし、問題はないだろう。
微妙な味の差は体調や空腹度でも変わりそう




