1223.肉チェック(3)
「ふむ。
治癒が早い回数もやはり17階の魔物よりも少ないな」
レッドブルの太ももに付けられた傷跡からにじみ出る血が止まらないのを見て、隆一がメモを取りながら言った。
17階ではバターブルとアーマーボアの治癒速度は違ったものの、何回傷が早く治るかに関しての回数は個体差があったものの平均するとさして差は無かった。
レッドブルもあと何体か被検体になって貰って平均値をとる必要があるが、少なくともこの個体は17階の魔物の6割程度の回数しか急速回復していないうちに魔力切れになったようだ。
「そういえば、この状態でどの程度魔力切れになっているのか確認するために、止めを刺す前に最後にちょっと火を吹かせてみよう」
魔力があれば火を吹く際に火傷しないように自分の身を守るが、魔力が切れかけていると火傷するのがレッドブルだ。
という事で、設置型足止め用魔道具の魔力がしっかりまだ残っているのを確認し、レッドブルの顔の向いている先に誰も居ないことを確認した隆一はレッドブルの頭部の痣と軽い挫傷を治して太もも周囲に掛けていた麻痺も解除し、ビクッ目を覚まして体を動かそうとしたレッドブルの尻を叩いてみた。
「ブ、ブ、ブモ~!」
唸りながら、レッドブルが火を吹く。
最初は水の分解が上手くできなかったのしょぼい炎しか出なかったが、最後にはちゃんと火炎放射器モドキな炎が口から噴き出していた。
「お、やっぱ火傷しているな。
傷が急速回復しない程度まで魔力を使うと熱耐性に使う魔力も切れるのか。
ふむ。ご協力ありがとう」
一言礼を言って、隆一は風矢でレッドブルの首元を貫き、頸動脈を切断した。
「考えてみたら、魔力がある肉を食べさせて体力アップするかのテストをするのに、先に魔力を枯渇させてたらテストの結果が狂わないか?」
デヴリンがレッドブルを解体し始めた隆一にちょっと首を傾げながら尋ねる。
「ああ、被験者に食べさせるのはダメだろうな。
下手に探索者ギルドの販売する肉と混入しちゃっても困るから、肉は持って帰らないけど、首元の水分解に使う器官は触媒みたいなもんだから、魔力を使い切った状態でも多分大丈夫だろう。
……でも一応売る前にテストさせて品質が普通の素材と同じかを確認した方がいいな」
隆一が手を止めて、切り取った器官を入れた保存袋にメモを書き付けた。
「食料としては使えるんだから、捨てるのはもったいないと思うぞ?
炊き出しなり保存食用なりに用途を指定して売ったらどうだ?」
ダルディールが口を挟む。
やはり素材を無駄にするのはちょっと気が引けるらしい。
今までだってそれなりに魔物を殺しまくって素材を捨ておいてきたこともあるが、考えてみたら大多数の捨てられた素材はあまりおいしくないという話の魔物がだった。
レッドブルは牛系なだけあって、それなりに美味しいから捨てるのは惜しいらしい。
「う~ん、テストとしてあと3体ぐらいは倒したいからなぁ。
全部肉を集めていたら運搬具に乗り切らないだろう。じゃあ、美味しい部位だけ切り分けようか。
ついでにダルディールとデヴリンも持って帰って食べてみて、普段食べるレッドブルに比べて味がどうか、教えてくれ」
バターブルの脂に関してはタルニーナに確認を頼んだが、肉に関しては自分で食べて確認するのも悪くない。
まあ、普段より美味しいならまだしも、不味いとなると隆一邸の住民たちは隆一にそれを指摘しない可能性が高いかもだが。
とは言え、『魔力を使い切らせてきた肉だから不味いかもだが、どう思う?』と聞いたら先入観があるせいで実際は大して違わないのに不味い気がしてしまう可能性もあるし。
アリスナあたりにしか確認は任せられないかも?
いや、余った分を燻製職人のダルガスに渡して燻製にしてもらって、仕上がりと味について意見を聞くのもありか。
元料理長なのだ。
彼の味覚もしっかりしている筈だから、正確なフィードバックを期待できるだろう。
魔力の抜けた肉のお味は?!




