1222.肉チェック(2)
意識不明になったレッドブルの脳を鑑定してみるが、どこを叩けば意識を奪い取れるかの詳細は鑑定でも分からない。
ある意味、どこを殴れば死ぬのかは試行錯誤で分かるだろうが、何度も繰り返し殴ると脳挫傷になってどこを一発殴れば意識を削り取れる場所が分からなくなりそうだ。
次回はデヴリンに殴って貰う前にしっかり鑑定しておいてから、殴られた後の違いを探すことにしようと隆一は決めた。
取り敢えず、今は切り傷への回復速度の確認だ。
スパっと20センチ程度太ももを切り裂き、傷が治っていく様子を観察する。
「明らかに17階の魔物よりは遅いな。
人間に食べさせた時の回復効果にも違いがあるのかね?」
下層の魔物の肉を大量に用意するのが面倒なので12階のレッドブルと7階の突進豚・牛を使うつもりだが、効果がはっきり見えるぐらい出るようだったら17階の魔物の肉の効果も追加調査してもいいかも知れない。
有事の際に騎士団のリカバリーを早めるために、17階の魔物の肉を確保しておくのも国防上重要な準備と考えられるかも?
新鮮ではない、冷凍したり干し肉や燻製にした17階の魔物の肉に高い回復効果が残るかのチェックが必要だが。
そう考えると12階のレッドブルで明らかに7階の魔物よりも効果が高いようだったら、次は3か月ぐらい放置した17階の魔物の干し肉や燻製肉と新鮮な12階のレッドブル肉との回復効果を確認して、3か月たった肉でも17階の物の方がいいようだったら騎士団で常時17階の肉の燻製でもストックするように進言したらいいかも知れない。
ローリングストック的に古くなった燻製肉を食べて消化していく形にすれば騎士団の食堂の食材の質も上がって騎士たちのモチベーションアップにもつながるかもだし。
傷が癒えてなくなったのを待ち、再度レッドブルの太ももを切り付ける。
近くの神経をちょっと圧迫することで痛覚を麻痺させて痛みで暴れないようにさせたので、願わくはこれでレッドブルが起きてこないと期待したい。
痛みに暴れて火を吹かれたら魔力が無駄になる。
「げ、誰か来た」
周囲を警戒しつつ見張っていたデヴリンが低い声で呟いた。
急いで周囲に対する魔力探知の範囲を広げたら、斜め後ろの方から人らしき魔力の塊が近づいてくるのが視える。
さりげなくそちらに背中を向け、懐中時計を確認して出血が止まった時間を記録した。
デヴリンは何やら身振りで『俺も大変なんだよ~』てきなことを伝えているっぽい。
「考えてみたら、いくら俺が近づいてきた人物から顔を隠しても、デヴリンとダルディールがやりたくもないのに我儘に付き合わなければならない相手なんて、ここずっとお守りしている招かれ人の俺しかいなくないか?」
二人に怪しげなマスクでも被ってもらうべきかと考えながら隆一が尋ねる。
「上でふらふら動き回っているリュウイチと招かれ人が同一人物だとは公開されていないから、鈍い人間だったら気付いていないぞ?」
デヴリンがちょっと気まずそうに応じる。
どうやら隆一が指摘した問題点は最初から気付いていたっぽい。
「というか、俺が食堂でデヴリン達と一緒のテーブルについて昼食を食べている時点で俺が誰かばれてないか??」
幾ら公に認めてなくても、招かれ人の護衛任務に就いている二人が護衛対象を放置して関係ない人間とランチを食べているとは考えにくいだろう。
「まあ、気にしな~い。
リュウイチが次から次へと魔物を切り付けている場面をしっかり見られなければ、隆一の趣味がヤバいとまでは思われないさ。
きっと」
デヴリンが笑いながら誤魔化した。
「学者系の人間が色々と理解不能なことをやるのは良く知られた現象だしな」
ダルディールが付け加えた。
研究者の行動は『現象』らしい。
まあ、変に隠しても却って好奇心を掻き立てるだろうし、諦めるしかないのだろう。
デヴリンの評判を守るか、隆一の評判を守るか。
それが問題だw




