1220.17階再び(10)
「密航者なんて最初から違法行為をやっている連中な上に国外から来ている人間なんだから、リュウイチに近づけるのは問題外だろう。
そうなるとスラムの住民一択だな」
デヴリンがちょっと呆れたように言った。
確かに研究をするためと言っても、隆一が国外から来た失う物もない様なギリギリな連中と接触するのはヴァサール王国としては絶対に許せないだろう。
というか、スラムの住人だって下手をしたら犯罪者だし、そうでなくても変な病気持ちだったり買収に前向きだったり犯罪組織の一員だったり家族が一員だったりする可能性もあるので、直接近づくことは多分許されない。
まあ、そこら辺は下町の神殿で開発品の耐久テストをやって貰ったのと似た感じに神殿経由でスラムや下町の貧しい人を対象にエフゲルトか神官に対処してもらい、結果だけ報告を受け取る形にすればいいだろう。
なんだったら最初と最後の健康診断的なチェックだけ、ちょっと隠れたところから隆一が鑑定を使ってやってもいいし。
いや、出来れば体力テスト的なこともやって、体力がどの程度上がったかも調べたい。鑑定で病気がないことを確認したうえで骨の状態や栄養バランスなどを見極めて記録し、体力テストを行う。そして決まった肉を1か月程度食べさせてどの程度変化があるかを確認しよう。
「取り敢えず、豚と牛の違い及び下層と上層の魔物の違いで確認したいところだな。
だとしたら、今日は取り敢えず12階のレッドブルで回復スピードを確認した上で16階のいちご狩りに行って、明日にでも7階の突進豚と突進牛の回復速度の違いを調べてみよう」
デヴリンが隆一の言葉に微妙な表情を見せた。
「久しぶりに7階で栗や胡桃を採取できるのは良いが、あそこはそれなりに探索者がいるからなぁ。
魔物を押さえつけてひたすら切り付ける姿を目撃されるのはちょっと悲しいな」
7階の肉はそれなりに王都で一般的に流通している食材なのだ。
栗や胡桃の木から離れたところで拘束して切りつけまくったとしても、肉を取りに来ている探索者に目撃される可能性は高い。
「暗幕か何かで囲ってやるか?
キャンプ用のテントもどきを持ってくれば大した手間じゃないぞ」
隆一が提案する。
確かに王家の騎士団の副団長さんがむやみと魔物を虐待している姿を目撃されるのは良くないかも知れない。
「ちょっと通常の探索者が通るルートから外れた奥でやって、探索者が近づかないように私が警備に立てばいいんじゃないか?」
ダルディールが言った。
「まあ、横倒れになった魔物を解体しているのか、繰り返し切りつけているのなんて近くまで来なきゃわからないよな。
へたっぴぃなお偉いさんに解体を丁寧に教えていると思わせればいいか」
ちょっと溜息を吐きながらデヴリンが言った。
「悪いな。
食事療法的に回復量を高める方法が確立されたら、それはそれで悪くはないと思うから知識の拡大のための犠牲だと思って諦めてくれ」
悪びれずに隆一が慰めの言葉を掛ける。
我儘で無能な依頼人に苦労させられるのは探索者の典型的な職業上の苦労の一つだろう。
デヴリンがそれに陥るのは珍しいと思われるかもしれないが、ある意味デヴリンとダルディールですら犠牲になると見られたら、余程の大物が我儘を言っていると思われて、普通に知恵がある探索者だったら寄ってもこないだろう。
……そう考えると、隆一がちょっと変装でもした方がいいかも知れない。
あまりアホで我儘な人間だと探索者の間で知られまわるのは望ましくない。
「取り敢えず!
まずは先にいちご狩りに行こうぜ!
そんでもってたっぷりイチゴを採ったら12階へ行ってレッドブルの回復度のテストだ」
パンパン!と手を叩いて微妙な心境を払いのけ、隆一が転移門の方へ足を進める。
他人の目なんぞ気にしていたら思う存分テストが出来ない。
気にする方が負けなのだ。
虐待マンの汚名を被りますw




