1218.17階再び(8)
「これらの3つのサンプルの味とか使い勝手の評価をしてくれないか?」
バターブルの解体を終え、取り敢えず昼食にという事で上に戻った際に、タルニーナの所に寄って脂肪のサンプル3つを渡した。
鑑定結果的には違いはないが、魔力視でじっくり見ると多少含有する魔力量は違っている。
これで味や料理に使った際に違いが出るのか、興味がある。
まあ、現実的なところを言うと態々魔物を魔道具で拘束して痛めつけて魔力を消耗させてから殺すなんて手間をかける探索者はいないと思うが。
「何が違うんです?」
タルニーナが渡されたサンプルを見ながら尋ねた。
「魔物って自分の魔力を使って傷を癒しているんだ。
だから拘束して傷を次から次へとつけていくとそのうち魔力が無くなって、止めを刺した際に魔石がスカスカな感じになるぐらいなんだけど、肉系の素材にも何か影響があるのかな?と思ってね」
ロックブルの場合、泥装甲を無理やり再構築させると実際に魔力が枯渇するところまで使い切るらしく、ナイフで急所を刺さなくても死んでしまった。
バターブルもアーマーボアも、傷をつけてそれを治すだけの場合は死んでしまうレベルまで魔力が枯渇するよりも先に目に見えるレベルでの傷の回復が起きなくなりその時点で実験を止めて倒したので、これらも魔力が枯渇したら死んだかどうかは確認できていない。
というか、泥装甲を殴り続けることで死ぬレベルまで魔力を枯渇できてしまうというロックボアが特殊なのだろう。
他の魔物では魔力の枯渇を誘発するのはそうそうできることではないと思われる。
ロックボアは毛細血管が魔法陣を形成していて血流内の血を使ってそれが泥装甲を生成していたから、殴ったら反応で泥装甲が強化され、血流内から完全になくなるまで魔力が使われることになったのだろう。
その点、バターブルもアーマーボアも魔力視で見える範囲では魔法陣がなかったので、無理やり死ぬレベルまでの魔力の絞り出し反応が起きなかったのだろうと思われる。
「相変わらず、変わった実験をしていますねぇ。
取り敢えず、泡立ちとか味を確認すればいいのですか?」
苦笑しながらタルニーナが尋ねる。
「ああ、それでいい。
実質単なる好奇心だからね」
魔力が減ることで素材の品質が上がるとはちょっと考えにくいので、深く研究してもあまり得るものはないだろう。
味が悪くなるなら出来るだけ一撃で倒せという話になるだけだ。
リポップと味の関係的にはリポップさせない方が良いのは既に分かっている。拘束して乳を奪い取る場合もあまり暴れさせて魔力を消費させない方が良いってことになるかもだが。と言うか、単に暴れるだけで魔力を消費するのかも不明だ。
というか、考えてみたら搾乳の為に拘束する際についでに脂肪も切り取ったらどうなるのだろうか?
そのうち元に戻る筈だが、それこそ整形美容手術の様に脂肪を吸引や切り取って出した場合に、時間がたったらこれがもとの状態に戻るのだろうか?
乳ならば翌日程度に戻っても不思議はないが、脂肪までもがっつり戻るとはちょっと考えにくい気もする。
「魔物が自分の魔力で傷を治しているとなると、魔力一杯な魔物の肉とかを食べたら人間も怪我からの回復が早くなるんでしょうかね?」
タルニーナが受け取ったシャーレに張り付けた付箋にメモ書きをしながらつぶやく。
「どうなんだろう?
下層の魔物の肉を食べたら怪我の回復が早いとか、あるのか?」
タルニーナにケーキを頼もうとしていたのか、食堂に行かずに傍に立っていたダルディールに尋ねる。
「怪我をするような時は疲れていることが多いから、肉をガンガン食べる傾向が強いんだ。
肉を食べないと回復が早いかとか、上層の安物肉だと回復が遅いとかは知らないな」
ダルディールが首を傾げながら応じた。
これは興味深い研究対象かも知れない。
それこそ、傷の治りの早さが倍ぐらい違ったバターブルとアーマーボアの肉でも回復量の違いが出る可能性はあるし。
ちょっとこれは試す価値があるかも知れない。
とは言え、同程度の怪我をしている探索者二人を実験台として確保する必要があるが。
怪我に関する治癒効果の実験は、比較対象の確保が難しいのが問題だ。
人体実験は常に困難に満ちてますよねぇ




