1216.17階再び(6)
「魔物の魔力って回復性な特性があるのかもだな。
もっとも、考えてみたら身体強化も魔力を高めるだけでやっている感じだから、身体能力が高まると治癒も早まるのかな?」
哀れなアーマーボアが魔力切れになるまでひたすら切り付けてそれが治る過程を観察していた隆一が、魔力切れになって傷口もほぼ回復しなくなったアーマーボアに止めを刺しながらコメントした。
「人間でも、魔力切れしていると怪我の治りが遅いぜ。
まあ、魔力切れになっても普通だったら一晩寝ればそれなりに回復するんだから、魔力切れな状態が継続する状態に陥っているってことは体が通常の状態じゃないってことで、そのせいで治りが遅いのかもだが」
デヴリンが教えてくれた。
「魔力切れになっている状態で回復の術を掛けても効果が薄いのか?」
隆一が尋ねる。
そんな注意事項は回復術について習った際に聞いていない気がする。
魔力だけでなく出血や飢餓で極端に体力が下がっている対象に回復術を掛ける際には魔力を小出しにしないと下手をするとショック症状になることがあるとは言われたが。
治りが悪いというのもその一環なのだろうか?
「回復師がいる場合はある程度治るまで治療してくれるから、そう言えば術の効き目が悪いか聞いたことはないな。だが回復薬を掛ける場合は魔力切れになるほど熾烈な戦いの後だと効果が弱い時が多い気がするぞ」
デヴリンがもう少し詳しく説明した。
「魔力切れになった場合に、怪我をしていたかしていなかったかで魔力の戻りの早さに違いとかあるのかな?」
足止め用魔道具を解除して魔石を取り出しながら隆一が尋ねる。
「さあ?
魔術師じゃない騎士が魔力切れになるほど熾烈な戦いだった場合、無傷な人間は殆どいないからなぁ。
比較対象を態々探し出して確認したことはないな。
魔力の回復スピードにも個人差があるし」
肩を竦めながらデヴリンが言った。
こういう個人差がある回復スピードの違いというのは統計を取るのも難しいようだ。
第一、戦争や大繁殖のようなギリギリの戦いの中で回復速度の違いなんてものをノンビリ調べている余裕がある人間なんていないだろうから、情報を集めるのも至難の業なのだろう。
「おや?」
取り出した魔石を見て、隆一がちょっと眉を顰めた。
「なんか濁っているな?」
隆一の手にある魔石を覗き込んだダルディールが言った。
「魔石って戦闘の長さとかどのくらい魔物が魔力を使ったかとかで品質に違いが出るのか?」
魔物のランクで魔石にも優劣が生じるのは知っていたが、死ぬ前の状態で魔石に違いが出るというのは今まで経験していなかった。
何度か実験対象にしてそれなりに酷い目に合わせた魔物も過去にいたのだが。
「攻撃と体の回復とでは、絞り出す体の余力の限界が違うのではないか?」
ダルディールが指摘した。
なるほど。
攻撃用の力が尽きてやめるのと、切り付けられた傷の回復に体が回す魔力の限界とでは違いがあるのだろう。
「まあ、魔石は今回は目的ではなかったから、良いとしよう。
次はバターブルだ!」
バターブルも似たような虐待をすると魔石が劣化するのだろうか?
魔石が劣化するのは構わないが、脂肪の味が落ちるのだったら先にそれを切り出したいところだが、流石に生きたまま解体するのは……ちょっとない。
味が落ちたら、それはそれで諦めよう。
そんなことを考えながら隆一はついでにアーマーボアの皮を何枚かに分けて切り出してみた。
「どうするんだ?」
血みどろな皮を何枚か切り出した隆一にデヴリンが尋ねる。
「魔法陣が無いのは確認してあるが、魔力を通したら強化されるのか確認してみようと思って」
素材的に魔力が通ったら強化される性質を有している可能性はある。そこら辺を今晩家で試そうと思ったのだ。
「ああ、アーマーボアの皮は魔力を通したり、魔力を込めた加工をすると強化されるよ?」
ダルディールがあっさり応じた。
どうやらこれは既に知られた現象だったらしい。
ロックボアの魔法陣は知られていなかったが、単に皮が強化されるという現象の方が皮だけを剥いで加工すればいいのだから、広まり利用されやすかったらしい。
「そっか。
まあ、比較対象に一応このまま持って帰ろう」
バターブルの皮と比べてみてもいいし。
マジでバターブルの生存へのプラス要素が何かないのか、気になる。
次はバターブルが虐待!?




