1215.17階再び(5)
「氷槍!」
突進してくるアーマーボアの前脚を狙って攻撃を放ち、上手い具合に怪我をして動きが鈍った魔物にクロスボウでボーラを放って足止め用魔道具で拘束し、隆一は倒れたアーマーボアの周囲に更に設置型足止め用魔道具を展開して動けないようにした。
「今度は何をするんだ?」
デヴリンが興味深げに覗き込みながら尋ねる。
「取り敢えず、傷の回復がどの程度の速度で何回まで出来るか、確認してみたい。
アーマーボアの防御力って身体強化みたいなもんだろう?
警戒時だと魔力を使って皮を強化しているみたいだから、このまま傷めつけながら拘束していたらそのうち魔力が切れると思うんだよね。
そうなる前となった後で、回復力にどの程度の違いがあるか、まずはテストしたい」
露骨に魔力を使って攻撃するレッドブルとかだとうっかり火を吹かれて火傷しかねないので、防御の方に魔力を使っているアーマーボアの方が実験の対象として無難だろう。
「それを確認して、どうするんだ?」
ちょっと首を傾げてデヴリンが尋ねる。
「まあ、特に何か得るものがあるって訳では無いが、次にバターブルでも同じことをやって違いがあるか、確認してみたい。
バターブルは魔力を攻撃にも防御にも使っていないタイプだろ?
ある意味、そういう視点で見たらアーマーボアは魔力を攻撃とかに使っているのに近くて、バターブルは回復に使うんじゃないかと想像しているんだが、その推論が正しいかを確認してみたい」
20センチほどアーマーボアの太ももに切り傷をつけ、時計を取り出して時間を確認しながら隆一が答えた。
「というか、強くなれば強くなるほど、魔物の回復力は上がるぞ?
魔力を攻撃に使うドラゴンは回復力も嫌になる程強いから、魔物全般的な指標的なものは入手できないと思うが」
デヴリンが少し困った顔をしながら指摘した。
「ドラゴンクラスのヤバい魔物とはどうせ俺は戦わないからね。
これは単なる興味の世界?
まあ、明らかに魔力を回復に使っているっぽい魔物がいたら、何か魔法陣とかでそれを可能にしている機能の元があるか探して、見つけ出したらそれを人間や家畜の治療に活用できないか調べてみるのは面白いと思うが」
ラノベなんかだとトロールとかが回復力特化な魔物だが、考えてみたらこちらでトロールという魔物を見た記憶はない。
もっと下の方にいるのかもだが、トロールと言えば怪力でも有名(想像の世界だが)なので、足止め用魔道具で拘束してその回復力の秘密に迫るのはちょっと難しそうだ。
「アーマーボアとバターブルで回復力に明らかな違いがあったら何が原因かを調べるのか?
だが牛系と豚系の魔物ってところで根本的に違うから、あまり比較対象にならないのでは?」
ダルディールが言った。
「まあなぁ。
そう考えると、レッドブルとバターブルを比較する方がいいか?」
魔力攻撃系なレッドブルと、味特化なバターブルだったら回復力に違いがあるなら調べてみる価値はあるかも知れない。
危険そうだが。
「レッドブルは火を吹くからなぁ。
あまりあれを長時間拘束して切りつけるという行為は推奨したくない」
ダルディールが顔をしかめながら言った。
「いや、火を吹くって分かっているんだから、火のエレメンタルスライムのジェルを使って防火用具でも作って安全を確保しながら実験したらいいかも?
階層が違うから性質だけでなく魔物の格自体が違うせいで回復力にも差が出そうだが」
というか、バターブルはある意味美味しさ特化という感じで、生き物としての生存競争的な進路が一体どういうルートだったのか、分からない存在だ。
人間に飼われるといる生き方がある家畜だったら十分実用的な進化だが、魔物なのだ。
今でも隆一を見かけたら問答無用で攻撃する為に突進してくる魔物なのに、何故に美味しい体を持つ方向に進化したのか、良く分からない。
それともどこかのダンジョンマスターが自分の食事用に改造した結果がバターブルで、それが他の迷宮にも広まったのだろうか?
それだったらついでに鶏肉とかトロも欲しい隆一だった。
空を飛ぶマグロが出てくる迷宮w




