1213.17階再び(3)
取り敢えず、隆一は変則的な倒し方をしたミノタウロス(中)の解体をする前に、全身を念入りに鑑定してみた。
特にどの部位も薬効がある訳ではないようで、骨や筋が硬いとか丈夫というコメントは多々あったが態々17階の魔物を倒して持って帰ろうと思うほどの素材は見当たらなかった。
体のどこにも魔法陣がないままこれだけの強さを誇るのだから、その筋肉や筋、骨はかなりの丈夫さを誇るのだろうが、突出して丈夫という訳ではないので防具や武器に使いたくなるほどの物ではないと思われる。
まあ、隆一は武器も防具も製造しないので、どのような素材が好ましいのかも知らないのだが。
「そういえば」
魔石を取り出し、迷宮に吸収させようと傍に退けておこうとミノタウロスの死骸を横に蹴り避けようとしたところで、ミノタウロスの持っていた棍棒が目に入った。
木材として、何か役に立つかも?
「鑑定」
『ミノタウロス(中)の棍棒。硬度8』
「おおう??」
思わず隆一は鑑定結果を二度見した。
確か、10階のアイアンゴーレムの硬度が5.5だった筈。
つまり、この棒は鉄よりも硬いらしい。
思わず隆一が手に取って持ち上げてみると、それなりにずっしりと重いが同じサイズの鉄よりは軽いと思われる。
「鉄よりも硬い棍棒って何か使い道があるかな?」
鉄と違って溶かしてサイズ調整が出来る訳ではないので武器には出来ないだろうが……ある意味、ナイフに削り出せたら金属探知機に引っ掛からない凶器を作れそうだ。
この世界では安全対策用に金属探知機を使っていないだろうから、あまり意味がない可能性が高いが。
却って魔力が多く含まれているという事で魔道具発見用の警報器か何かに引っ掛かるかも知れない。
「鉄よりも硬いのか。
何かの動きを緊急事態の時に止めるときの障害物として使えるかも? だが、最終的にその硬度で耐えられない力が加わった際に、曲がるのでなく折れて砕けるのだとしたら素材が曲がっても残る鉄よりも機関の動きを止める効果が低いかもだな」
デヴリンがちょっと首を傾げて考えながら応じた。
なるほど、車輪や何か大きな物を動かす歯車を緊急停止させる際に鉄の棒のような硬い物を突っ込んで動きを止めるのだろうが、力に負けて砕けてしまうのでは困るから砕け散らない鉄棒などはよく使われるのだろう。
鉄よりもミノタウロスの棍棒の方が硬いのだったらこれで十分かも知れないが、力が強すぎて負けた際に砕けてなくなってしまうと、引きちぎれても部品が残り挟まって歯車や車輪を止めるかも知れない鉄の方がいいという考え方もあるのか。
「ふむ。
何かに使えるかもってことで一応持って帰って商業ギルドにでも使い道がないか、提案してみるか」
17階まで取りに来るだけの費用対効果が無ければならないが。
「フリオスにもついでに聞いてみるよ。
何かに欲しがるかもしれない」
デヴリンが付け足す。
「俺の方もスフィーナに聞いてみよう。硬い素材というのはそれなりに使い道がある可能性が高いし、お手軽なサイズと重さなんだから、17階まで来てミノタウロスを倒したらついでに持って帰って来てくれと探索者に言っておくだけでもいいだろう」
ダルディールも頷く。
「まあ、ミノタウロス(中)を態々17階まで倒しに来る探索者が居なそうだけどな。
バターブルを倒す際についでにって程度かな?」
隆一が指摘する。
「そうだな。
バターブルの肉で一杯になった運搬具の隙間に突っ込むのにちょうどいいかも」
ダルディールが笑いながら頷いた。
ミノタウロスは肉も特に欲しくなかったので、棍棒と魔石だけ取って運搬具へ。
ついでに足元の雑草も手当たり次第に鑑定するが、特に何か目新しい効用を持つ素材はなかった。
やはり新発見というのはそうそうあるものではないらしい。
まあ、ミノタウロスの棍棒だって新発見と言えなくはないかも知れないが。
「今日は帰りにバターブルの肉をたっぷり持って帰ろうぜ。
レッドブルの乳から作ったチーズやバターも美味しいが、やはりバターブルには負ける」
デヴリンが嬉しそうに言った。
「そうだな」
それこそ、この棍棒でバターブルの頭をぶん殴ったらいい感じに体を傷めずに倒せたりしないのだろうか?
車軸とか、合成弓の部品にでも使える?




