1212.17階再び(2)
「ちなみに17階では何をするんだ?」
15階の転移門から出て、下へ降りる階段へ向かいながらデヴリンが尋ねた。
「クロスボウもどきな足止め用魔道具を使って自力でミノタウロス(中)やバターブルとアーマーボアを倒すのが一つの目標だが、あとは足元の草を片っ端から鑑定して回って何か珍しい素材が無いか、試す感じかな」
隆一が応じる。
バターブルに関しては乳を搾ったり脂を採ったり肉を集めたりした際にそれなりに丹念に体中を鑑定したので、あれに関しては想定外な発見はないと思う。
アーマーボアに関してはも、そのアーマー部分の仕組みは一応丹念に鑑定したし、それ以外の部分は他のボア系魔物とそれ程違いはないと思われる。
ミノタウロス(中)に関しては……二本足で歩く魔物は隆一的には食材にしにくかったのであまりそれ程調べていない。なので今回がっつり鑑定しまくってみるつもりではある。
とは言え、今までにミノタウロスは長年色々と倒されて利用されてきただろうから、想定外な発見は予想していない。
だから何か面白い発見があるとしたら足元の雑草ではないかと思っている隆一だった。
まあ、新発見は16階のトレント苗の若葉でそこそこ大きな影響がありそうなので、今日は17階の大型魔物を一人で倒せるようになれば十分だろうと考えている隆一だった。
「ふむ。
あのクロスボウでかなり正確に足止め用のボーラを打ち出せるようになったが、強度が足りるかが心配だね。
幸い、今だったら一撃食らって即死という事はほぼないだろうから、回復薬を持って注意深く見守ることにしよう」
ダルディールが言った。
「中級回復薬も持ってきて運搬具に入れてあるから、必要があったらそれを使ってくれ」
隆一が頷きながら頼んだ。
回復草とトレント苗の若葉や他の素材を使って回復薬の効果を上げられないかとリジェネ薬の開発ついでに色々と試した際に中級ランク相応の効果がある回復薬が幾つか出来上がったのだ。
素材の費用や精製の手間や難易度を考えると現存の中級回復薬の精製レシピより優れているとは言い難いものばかりだったので、もしもの時の代替製造法として一応登録したが、使われることはほぼないだろう。
そんな中級回復薬の試作品は一応登録の際の見本として一部ずつはザファードに渡してあるが、残った試作品は捨てるのはもったいないが売るには検査などの手間がかかりすぎる為、怪我をしたら使おうと持ってきたのだ。
使わなかったら、適当に帰る間際に探索者ギルドの受付近辺でたむろしている見習い回復師狙いな怪我人にでも使わせればいいだろうし。
「できれば怪我はしないでくれるのが一番なんだけどな。
とは言え、安全マージンをがっつり取った戦いしかしないんじゃあいつまで経っても育たない。
中級ポーションで足りないような大怪我は流石に17階の魔物だったら大丈夫だろう」
デヴリンがちょっと微妙な顔をしながら頷いた。
ここで隆一がうっかり死んだ場合に天罰対象になるかを考えているのかも知れない。
多分大丈夫だと思うが、流石にこれはやってみなければ分からないし、試すために死ぬわけにもいかないので永遠に分からないままだろう。
「おう。
まずはミノタウロス(中)だな!」
ミノタウロスのなわばりの方へ足を進めながら隆一は腕に付けたクロスボウを再確認し、魔力探知の範囲を広げる。
17階にもなると魔物のなわばりもそれなりに広くなるので、どこで襲われるかはそのときにならなければ分からない。
まあ、17階の魔物は攻撃力の方が隠密性より脅威なので、注意を払っているのに奇襲を受けるという事はまずないのだが。
丁度いい感じな場所でミノタウロス(多分)の魔力を感知し、隆一は足を止めた。
魔力を練って氷槍の準備をしておく。
クロスボウもどきの有効範囲よりも氷槍の方が長いので、まずは一撃これをくらわす。攻撃によって動きが変化する可能性があるので二撃目は後回しにして、足止めを先に狙うために動きを観察する予定だ。
「氷槍!」
攻撃魔術の有効範囲内に入ってきたミノタウロスへ、攻撃をくらわす。
いい感じに太ももに当たった。
これで機動力が落ちる筈。
「グワァァ!!」
痛みと怒りの叫び声をミノタウロスが上げる。
そのまま隆一の方に進み続けるが、攻撃が当たった左足の方は動きが鈍くなっている。
今度は肩を狙ってクロスボウを放つ。
左腕の付け根に当たったボーラがぐるぐるとミノタウロスの肩と首の周りに巻き付き、最後の粘着液の塊がミノタウロスの顔に張り付いた。
「……あれ?」
じたばたとミノタウロスが暴れるが、腕が足止め用魔道具の粘着網に捕らわれていて動かず、そのままばたんと倒れてじたばたしていたミノタウロスだが……やがて動きが止まった。
「魔物も息をしないと死ぬんだな」
鑑定で死んだのを確認した隆一が、ぼそりと呟いた。
「中々素晴らしい攻撃だったな。
狙って出来るなら、今のだと素材が傷つかなくて丁度いいと思うぞ」
デヴリンが笑いながら言った。
「狙って出来ないのは分かっていて、言っているだろ?」
丁度いい具合に口と鼻の穴をふさぎ、かつ腕も固定する形で足止め用魔道具が巻き付くなんて偶然はまずない。
でもまあ、中々面白い結果にはなった。
意図的にこれを繰り返せないか、試してみよう。
クロスボウから出てくるボーラは粘着網で出来た縄っぽいんですが、しっかり固定されるように最後の部分に粘着液がちょっと多めに固まっているんですが、それがいい感じに鼻と口に穴を塞ぎましたw




