1210.若葉入りポーション試作(19)
「王都以外の迷宮でエルダートレントもしくはトレントがある迷宮に、若葉があるトレント苗を探す依頼を出したいんだが」
先日採取したトレント苗の若葉をすべて実験に使ってしまった(乾燥させているのも含めて)隆一は、翌日スフィーナに依頼の話をしに探索者ギルドへ出向いた。
「いえ、リュウイチ殿に依頼としていただかなくても、探索者ギルドの方で依頼を出しておりますから大丈夫です。
既にヴァーレ迷宮の18階で少ないながらも苗が見つかりました。他の迷宮でも見つかり次第リュウイチ殿にも情報を共有しますね」
スフィーナが隆一に答えた。
流石出来る女、スフィーナ。
既に手配していたらしい。
「そうか。
だとしたら……あとは、これらの使用テストも頼もうかな。
液体だと飲んでから20分間効果が続くが、飴にすると口にある間ずっと一定の回復効果がある。かみ砕いて飲み込むと一気に回復効果が生じる代わりにその時点で終わりになる。
ちなみに……液体のポーションの味はかなり酷い。飴はそれなりに悪くないのを選んでいるが、一番効果が高いのは激マズだから、味覚が死んでいる奴しか使えないと思う」
隆一はもってきたテスト用の試作品の入った瓶を幾つか机の上に出しながら言った。
継続的回復薬は味の調整をしていないので、『良薬は口に苦し』を具現化したようなかなりの苦さだ。
まあ、一気に飲み込んで口直しに水なり飴なりを口に入れれば何とかなるかも?という世界だろう。
「飴型だったら持ち歩きしやそうですし、ずっと効果を継続できるというのは遠隔地での継戦能力を高めるのに良さそうですね。
是非試させていただきます」
スフィーナが興味深げに隆一が差し出した中間報告のレポートを手に取った。
「まだ先日採取した若葉を乾燥させた物で同じポーションや飴が精製出来るか試している所なんだが、他の迷宮で発見されたトレント苗をそのまま魔石を植木鉢にでも一緒に入れて王都まで持ってきてもらえないかな?
効果が王都迷宮の物と同じか、確認してみたい。
精製方法が確立出来たら神殿で最終的な治験をした後に、神殿や薬師ギルドにレシピを公開するから各地でガンガン作りまくってくれ」
大繁殖対策に役に立つとなったら是非とも各地で大量にストックしてもらいたいところだが、何分新しい製品なので有効期限などの確認もまだできていない。
とは言え、短期間しか保たないのだったら通常の鍛錬や探索で使ってしまえばいいので、それなりの量を作っても無駄にはならないだろう。
「レシピを公開していただけるのですか」
スフィーナが中立的なニュアンスで応じた。
「飛行具や掃除用魔道具や妖精の手は商業的な商品だからそれなりに利益を確保するつもりだが、薬系の発明は特許料は最低限にするつもりだよ? 生産者が利益を得るのは止めないが」
隆一が言った。
元々、薬の開発目当てで召喚された可能性が高い隆一なのだ。
ある意味、その期待を込めて隆一への屋敷購入や護衛の予算が国によって出されているのに、隆一は自分の興味本位に色々やっていて薬に関してはあまり手を出していない。
なので何か目新しい薬関連の物を偶然見つけた際には多少の貢献をしておくのも悪くはないだろう。
薬関係で金儲けをし過ぎると、資金援助するからもっとそっちに時間を割いてくれと言われても嫌だし。
「回復系の薬はいくらあっても多すぎることはありませんからね。
助かります。
飴という形で長期保存できるのでしたら僻地などに魔物を求めて遠出することも多い探索者にとっては非常に有難い新商品になると思います」
スフィーナが言った。
「まだどの程度の期間、効果が残るかのテストも出来ていないからね。
ある程度テストが出来たら、それこそ探索や護衛依頼で遠出した際に鞄に適当に瓶や缶に入れて持ち運んでいて雨に降られたり直射日光でバッグが熱せられたりした場合にどんな影響があるかとかのテストもしてもらえると助かる」
それこそ暑くて溶けてしまった継続的回復薬飴の効果がどうなるのか、興味がある。
直射日光にさらされたリュックの中に入れてあった場合にどうなるかも知りたいし。
……その程度だったら、リュックの中に紙袋や缶、瓶に入れて庭の日が当たる場所に半日放置した後に、どうなっているか家で試してみてもいい。
「そういえば、もう少し色々テストをしたいからトレント苗の若葉が欲しいんだが、あるだけ買い取れるかな?」
上手くいけば大量に必要になるだろうから毎日あるだけ採取してきた方がいいのではと言っておいたので、それなりに集めておいてくれていると期待しているのだが。
「多少はこちらの研究者も使っているのですべては残っていませんが、残っている素材を今持ってきますね」
スフィーナが頷きながら立ち上がった。
どうやら探索者ギルドの方でも研究を始めているらしい。
ベトベトに溶けてから再度固まった飴の薬効ってガッツリ減ってそう?




