1209.若葉入りポーション試作（18）

「鍛錬開始前に口にして評判が良かったのはこれとこれですが、鍛錬中の休憩時に追加で試した際にはこちらの塩入りが好評でした。

　ちなみにこちらは効果が一番高かったものの、口の中に入れておくのが無理！という人間が多かったのですが……何人かは味覚が死んでいる者もいるので、そういう人間用に小さなロットでも注文できるのでしたら欲しいですね」

　試作品を渡してから数日で、フリオスが隆一邸へ飴型継続的回復薬《リジェネ薬》のテスト結果を報告しに来た。

　テスト結果を待っている間に飴型継続的回復薬(リジェネ薬)と飴型|回復薬改の効果を上げたり精製方法を簡単に出来ないか等、色々と試行錯誤していた隆一だがフリオスの持ってきた報告を見てあっさり頷いた。どうやら殆どの騎士達と隆一とで極端に味覚に違いはないらしい。

「じゃあ、この激マズだけど効果マシマシのと、甘塩っぱい(スポドリ)タイプのと、レモン味と蜂蜜味のを合計４種類作る感じが良いかな？

　あ、ついでにこっちも次に試してもらえないか？

　こちらは薬草と回復草を使うタイプで、多少製造コストが安くなる変わりに味が更に微妙になったのをなんとか食べられるレベルまで改善した物なんだ。

　効果や味の違いだけでなく、どの程度の値段だったら各飴を購入するかの参考値も適当に教えてくれると助かる」

　薬草を使うタイプの方が素材費は安くなるが、精製が大変なので技術費と合わせるとそれ程値段が変わらない結果となったが、素材費が安い方が大量生産して技術レベルが上がった後に値引きをしやすくなる……かも知れない。

　多少は効果も違うし、味も違うので消費者側の視点からフィードバックが欲しい。

「我々のコメントに基づいて製造を決めるのですか？

　王都周辺以外でトレント苗が迷宮にない地域の場合は、素材を王都から購入するとなるとかなり値段が違ってくるので、王都での価格だけを考えて製造を決めないでいただく方がいいかもしれません」

　フリオスがちょっと微妙な顔をして指摘した。

「薬の製造方法はすべて登録するから、地方ではそこで入手できる素材で最適なものを作ればいいと思うぞ。

　単に王都で製造を任せる工房なり薬師なりに、騎士団はこれが欲しいらしいって教えておくだけだ」

　一応乾燥させたトレント苗の若葉でも精製できるかを確認するために、素材をフリーズドライにしたり天日干ししたり水分を抽出する形で乾燥させたりと色々と試しているところだが、乾かしてから5日程度経った状態での精製を試そうとまだ待っているところである。

「素材というのは状況次第で入手できないこともあるので、代替素材や製造方法があると助かります」

　フリオスが飴型回復薬改の試作品を受け取りながら言った。

「まあ、飛行具が公開されてそれなりに出回たら薬の補給も足りない地域から足りる地域へ空輸できるようになるとは思うが……王都迷宮に問題が起きた時のことを考えると、少なくとも新鮮な素材が手に入らない場合にどうにか出来るかは色々と今のうちに試行錯誤しておく方がいいだろうから、試して欲しいことがあったら言ってくれ」

　継続的回復(リジェネ)薬は回復薬《ポーション》以上に大繁殖《スタンピード》などで長時間戦い続けなければならない状況になった時に役に立つだろう。

　そう考えると、非常時の対応として騎士団が想定する状況を今のうちに聞いておいてその対処に使える代替素材なり薬なりを今の内から開発しておいて損はない。

「まあ、王都迷宮が使えなくなったらヴァサール王国の滅亡寸前な可能性が高い気もしますが、16階の素材となるとそれなりの腕利きな探索者か騎士が必要になるので、そういう人材が素材を取りに行けない状況を考える必要がありますね」

　フリオスが指摘した。

　なるほど。

　確かに大繁殖《スタンピード》や戦争中だったら薬の素材集めのために王都迷宮に行かせられる人材にも限りがあるだろう。

　１階の薬草だったら普通に老人や子供や怪我人でも集められるが、16階はそうもいかない。

　そう考えると、長期保存できる乾燥したトレント苗の若葉を大量に在庫として保管しておくか、リポップがなくて非効率的だとしても地上でトレントの苗を育てるのも必要なのかもしれない。

　だからダルディールはトレント苗の栽培に乗り気だったのだろうか？

「トレント苗の栽培に関しては探索者ギルドの方で出来ないか試している。

　俺は取り敢えず、乾燥させた葉でどの程度の薬効がある薬飴が作れるか試しておくよ。

　その間に、こちらの飴型回復薬改のフィードバックをよろしく」

　ついでに探索者ギルドに頼んで、他の迷宮のエルダートレント（中）の傍に苗があるか、確認してもらってもいいかも知れない。

　前回コボルトの虐殺に行った際についでに自分で確認出来たらよかったのだが。残念だ。