1206.若葉入りポーション試作(15)
「へぇぇ、中級薬草を使うよりも回復草を足す方がいいのか」
味に関してはアリスナに任せることにして、実際のポーションそのものの効果を16階以外の素材を使って安上がりに高められないかと試したところ。1階の薬草を6階の中級薬草で入れ替えるよりも、1階の薬草に11階の回復草を足す方が効果が高くなった。
「でも、回復草を使った薬の精製ってちょっと難易度があがりますよね」
エフゲルトが自分の失敗した試作品を悲し気に見ながら指摘した。
「確かに?
成功率が低くて無駄になる素材が多いとなると、コストが高くなるか。
中級薬草でもそれなりに効果は上がるし」
中級薬草を使った回復薬改で8%の継続的回復効果を得られるのと、薬草と回復草を使った回復薬改で10%の効果を得られるのとでは、微妙な差かも知れない。
「中級薬草と回復草を使って更に高い効果が得られたらもっと良かったのに、なんでダメなんでしょうね?」
こちらに関しては、場合によってはトレント苗の若葉を超える効果を得られるかと隆一も期待しながら試作してみたのだが、何度やっても失敗してしまった。
「何か一緒に使えない理由があるのか、じゃなきゃ上手くいく条件がデリケート過ぎて俺達程度の腕ではダメなんだろうな。
そこまで難しいとなると、あまり実用性がないレシピになるかも」
超絶に腕がいい錬金術師か薬師でないと精製出来ない薬なんて、怪我をしそうな場面で日常的に使うには勿体ない。
そこまで腕がいい人間は難病の為の薬の精製に注力するべきである。ガンガン怪我をするような連中に渡す薬は、もっと平均的な錬金術師や薬師が作れる程度のランクの物を使うべきだろう。第一、探索者や軍人向けの怪我の回復薬では必要量が多くなりすぎる。
「そういえば、トレント苗の若葉に回復草を足すのは試さないのですか?」
エフゲルトが指摘する。
「そういえば、やってなかったな。
元々、トレント苗の使用量を減らしてコスト削減を狙っての回復草利用だったんだよな。だが、トレント苗の若葉を使った継続的回復薬の回復効果を上げられるならそれはそれでいいことか」
隆一が頷き、回復草とトレント苗の若葉を手に取る。
回復草の方が加熱して薬効を取り出せるようになるのにかかる時間が長い代わりに量は少なくていいので、まずは少量の回復草を刻んで、ビーカーに入れた魔力水の中に放り込み、ゆっくりと熱しすぎないように温度を上げていく。
今まで適当に『泡がビーカーの底に生じるぐらい』の温度まで加熱して薬効を抽出していたが、実は35度程度で加熱を抑えてじっくり時間を掛けて抽出する方が全般的に効果が高いという事が分かったのは、中々いい発見だった。
今度神殿の製薬部の部長にでも、そのことを知っていたか聞いてみてもいいかも知れない。
それはさておき。
温度計が35度に近づいてきたのを横目に見つつ、コンロの熱を緩めていく。
徐々に液体が黄色くなってきたところで薬効成分を抽出し、コンロから外して温度を冷ます。
「これってなんで熱くなっている液体に薬草とかを入れちゃダメなんでしょうね?」
エフゲルトが冷却を促進するためか団扇を取り出してビーカーと隆一を仰ぎながら言った。
エアコンがあるとはいえ、色々と加熱していたせいでちょっと暑くなってきていたので団扇の風が気持ちいい。
「徐々に熱が上がると草もそれに対応して徐々に変化するから細胞膜が壊れないが、一気に温度が変わると水分の膨張が細胞膜の膨張よりも急なせいで出て欲しくない成分まで流れ出てくるからなんじゃないか?」
実際に細胞膜の状態などを顕微鏡で確認している訳ではないので、単なる想像だが。
だが、現実の結果として回復草の薬効成分を取り出した35度の魔力水にそのまま薬草とトレント苗の若葉を入れて薬効を取り出そうとした場合、一度冷ましてからもう一度加熱するよりも回復率が悪かったので、何かが問題なのだろう。
かなり面倒だが。
というか、回復草の薬効を取り出した液体を準備しておいて、それを足す形に出来ないか、後で試してみてもいいかも知れない。
まあ、そこら辺の試行錯誤は神殿の製薬部に任せよう。
回復薬のエキス入り魔力水の温度が下がったので、再度コンロに戻し、トレント苗の若葉を入れてゆっくりと温度をあげて35度になったところで薬効を抽出する。
いい感じにきれいな黄緑色の液体になった。
「鑑定」
『継続的回復薬《リジェネ薬》タイプBT64:BQE211(通称:トレント)#A3の薬効成分とBMT58(通称:回復草)E2の触媒成分を魔力水に抽出した薬効系ポーション。服用した場合、15%程度の軽度組織損傷に対して回復効果が20分程度続く』
「おお~。
今まで一番高い効果になったな」
味がどうなのかは知らないが。
漫画の必殺技がどんどnグレードアップする並に、リジェネ薬の効果も上がっている気が……;




